農style fileVol.2

2009.09.29 UP

home > 農style file > Vol.2 豊かな「農」の世界を、作って、売って、伝える。

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細貝陽子さん

豊かな「農」の世界を、
作って、売って、伝える。

「細貝さんのしいたけはおいしいよ」何人かにその言葉を聞いた。そして、それは札幌市内で原木栽培で作られているのだという。細貝陽子さんに会おうと車で豊平川沿いを走っていると、「花ときのこ ほそがい」という小さな看板。大きな道路に挟まれた窪地へとおりていく。そこには周囲とは少し違った一角が広がっていた。椎茸用のハウス、栽培用の原木の山、数々の美しい植物の苗。都会の一角に、素敵な「農園」は広がっていた。
椎茸となめこ、そして数々の植物の苗を生産・販売している細貝さんは、50歳での新規就農者である。ただ新規就農とはいえ、椎茸栽培に関しては約20年のベテラン。「絶品!」と言われるほどの椎茸を生み出す名人である。「農業が大好き!」という空気を全身から漂わせる細貝さんに、農に関する様々な楽しいお話を伺った。

売り手から作り手への転身

細貝さんのキャリアは興味深い。農家となる前は八百屋をご主人の修さんと共に営んでいた。さらに実家は仲卸。ということは、ずっと農業のそばで生きてきた人なのだ。そして、元々植物を育てることが大好き。
平成元年から夫婦で原木栽培の椎茸を作り始めるが、その理由はこうだ。「農業経営の厳しさはよくわかっていましたから、狭い土地で作れる単価の高いものじゃなきゃだめ。そして破棄される野菜をたくさんみてきたから、収穫して99%商品として使えるものを作りたかったの」さらに経済的に安定するまでと、三年間は八百屋と兼業。こういった経営感覚も細貝さんの特長だ。
おいしさの秘密を訪ねると、やはり原木栽培だそうだ。椎茸作りには原木栽培と菌床栽培の二種類がある。楢などの原木にドリルで穴をあけ菌を植え付ける原木栽培は、自然の状態に近い栽培方法で、手間はかかるが味・香りともに菌床栽培に勝ると言われている。そして、細貝さんのきめ細かな管理がおいしさを増幅させる。

椎茸作りを始めて15年も経ってから就農したと伺って、最初は事情が良く飲み込めなかった。「椎茸は林用特産物といって、農作物じゃないんですよ。だから椎茸を作っていても農業者として認めてもらえなかったの」農業者にならなければ、農地の取得もできない。それで「50歳になったら農家になろう!」と決心していたそうだ。その準備として、さっぽろ農学校で二年間農業を学び、椎茸づくりの傍らで栽培していた「花」で新規就農する。それが現在の花の苗の販売につながっている。
就農後は、少し離れた場所に農地を取得。さらに様々な「農」の展開を夢見ているそうだ。 「札幌版『きのこの里』をつくりたいの」

キャリアが活きる、おいしさの伝わる売り方

椎茸の販売は、細貝さん自身の配達や直売が中心。そしてそれが口コミで広がっていく。お客さんとのつながりが深いから、椎茸の状態も直接伝えられるし、食べ方のアドバイスも可能だ。作ることと売ることがしっかりつながっている様子は、やはり八百屋であったというキャリアが活きていると感じさせられる。お客さんとの接し方、喜ばせ方など、普通の生産者には見られない感性が随所に見られる。椎茸のおいしさが、しっかり伝わる売り方なのだ。
最近、各地で企画されているイベントなどで生産者が直接販売する「マルシェ(市場)」にも積極的に参加している。お客さんや参加される農家とのつながりができるからだ。そういった点で、細貝さんはマルシェの必要性を感じている。ただ、生産者にとってハードルが高い場合が多いそうだ。生産者は時間や労力がかかりすぎると参加できない。しかも高い参加費。農作物を販売した利益分では足りないこともあるという。「マルシェは短時間、そして継続的なものが必要」と細貝さん。ここでもお客さんといい形でつながり、おいしさが伝わる売り方を考えているのだ。
「どこかに自分たちのマルシェをつくりたいわね」と細貝さんは考えている。運営方法、売り場の作り方などなど、八百屋のキャリアを持つ生産者ならではのプランが溢れ出る。

ほとばしる情熱で、農の豊かさを伝え続ける

「札幌の農業に強い危機感を持っているんです」
この思いは非常に強く、多忙な中でも様々な動きに参加している。「さっぽろ農学校倶楽部」という、細貝さんが第一期生として学んだ、さっぽろ農学校の卒業生有志でつくったNPO法人がある。収穫体験を行ったり、幼稚園や小学校に農作物を提供したりして、これからの都市型農業のあり方を提案している。「札幌市民に農業を身近に感じてもらいたいんです」と、このような活動にも労を惜しまない。マルシェなどに積極的に参加する理由はそこにもある。
細貝さんには、札幌市民をはじめとする農業を取り巻く人々に対して、伝えたいことがたくさんある。
「ものをつくることは、とにかく楽しいですよ!」
「農業は北海道の大きな魅力のひとつなんです!」
「社会の多くの問題に農は関係しています。農業や食べ物を大切にすることこそ重要です!」
自ら実践しつつ語るその言葉には説得力がある。そして、その明るい表情とパワーで、聞いている側が元気をもらえて、前向きにがんばれそうな気にさせられる。

細貝さんの想いは、実は身近なところで確実に伝わり実を結んでいる。細貝さんの次男が農業の世界に入り、跡を継いでくれることになっているのだ。今は「ねぎ」のプロフェッショナルになりたいと勉強中とか。非常に楽しみだ。
椎茸を作って売ることも、花の苗を作って売ることも、マルシェでいろんな人たちとつながることも、原点はすべてこの言葉に集約されている。
「農の豊かさを伝えたいんです」

取材・文 森末 忍

写真 亀谷 光

花ときのこ ほそがい
札幌市豊平区中の島1条14丁目2-16
TEL/FAX:011-831-3859
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