農style fileVol.3

2009.10.19 UP

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ファーム伊達家

地域で支え合う、種を採る農業。

札幌市南区で就農して五年目を迎える「ファーム伊達家」は、その名でわかるように、伊達さん一家が営む小さな農園だ。定山渓温泉に向かう国道から、山中に向かって折れ細い道を上っていくと、眺めのいい丘陵地にその農園は広がっていた。
無肥料無農薬の自然栽培で年間約40種類以上の野菜をつくっているという農園を、伊達寛記さんと愛子さん夫妻に案内して頂いた。肥料の力を借りず、土の本来の力を最大限に発揮させようという農法だ。農薬も使わないせいか、雑草も多い。「もちろん雑草はとったほうがいいんですけどね。やることがたくさんあって、なかなか手がまわらなくて・・・」
「できるだけ小さな家族農」を目指すという「ファーム伊達家」は、とっても真面目で、アットホームな農園だった。

命をつなぐ「種」

農園の所々に、「種」と書かれた札がかかっている野菜がある。見たこともないほど大きく育ったキュウリ、ナス。「あれから種を採るんです」いい種がとれそうな元気な株に「種」札が掛けられ、その株は収穫せずに種が採れるまで残されるとのこと。
「種の世界は深いですよ」と寛記さんが教えてくれた。現在、多くの農家ではF1種と呼ばれる交配種を種苗メーカーから購入して使っている。F1種は、複数品種の交配によって、たとえば、収穫量が多く、生育の早さや形状がそろっている・・・というように、大量生産・流通・販売に都合のいい性質に作られた一代限りのもの。F1種を育てて種を採っても、次の世代では性質がバラバラになってしまい、流通・販売に向かない。だから、農家は毎年、F1種を購入することになる。

ファーム伊達家はこのF1種を使わない。芽→花→実→種という循環の中で受け継がれてきた「在来種(固定種)」という種を使う。そして、そこから種を採って野菜を作り続けていく。
在来種は都合よく改良されたF1種より収穫量が劣り、生育の早さや形状に多少のばらつきがある。さらに本来収穫する時期を越えて種が採れるまで育てるため、畑の使用期間が長くなる。そうなると生産の効率は悪くなる。そんな厳しい状況をわかっていながらファーム伊達家は在来種での自家採種を行っている。寛記さんはその理由をこんな言葉で語っている。
「種の安全性にもこだわり、自分の畑で種を採り、命をつないでいきます」

地域で支え合う「家族農」

ファーム伊達家の野菜は普通にスーパーや八百屋で売られているわけではない。年間契約する会員へ「ファーム伊達家・旬の野菜セット」を販売している。野菜は直接届けるか、拠点となっている幼稚園での手渡しである。だから会員は農園の近隣の人々。
会員はファーム伊達家の野菜を購入するだけではない。時には農園にやってきて家族で遊んだり、農作業を手伝う。まさに家族ぐるみの付き合いとなる。そして、会員家族には農場以外での農作業があるという。
「食べるということも大切な農作業なんですよ」
なんとも素敵な言葉ではないか。伊達家は野菜を作るという農作業、会員は野菜を食べるという農作業。お互いに支え合って成り立つ農業なのだ。
この仕組みはCSA(Community Supported Agriculture)という考え方に基づいている。「地域で支え合う農業」という意味である。農園で農作物を生産することはその地域の財産であり、それを地域で支えていこうというものだ。それが農地を守ることにもつながる。

ファーム伊達家の野菜セットには、「ようこそ畑へ」という、畑の様子、野菜の食べ方などが書かれた畑からのお便りが添えられる。このお便りを楽しみにしている会員も多いという。
そしてその野菜やお便りに対して、会員から様々な反応が届く。取材時、愛子さんが携帯メールをうれしそうに読んでいた。会員の方々からの野菜についての感想だという。畑と食卓の密なつながりが実感できる瞬間だ。ちなみにファーム伊達家の野菜は、味が濃くておいしいと評判らしい。

五年目に入り、徐々に目指すものは見えてきたが、まだまだ苦労は多いようである。愛子さん曰く、「(大変さを)知らないからやれたんです。今でも大変です(笑)」
それでも「やってよかったと思ってますよ」とふたりは声をそろえる。
午後二時を過ぎると子供たちがやってきた。三人の子供たちは農園で遊び回ったり、時には農作業を手伝ったり。伊達さん夫妻の子供たちを見る目がやさしい。家族五人が農園で過ごすかけがえのない時間に触れ、「ファーム伊達家」という名前に込められた想いが少し理解できたような気がした。

取材・文 森末 忍

写真 亀谷 光

ファーム伊達家
札幌市南区豊滝435番地
TEL/FAX:011-596-1507

いい種がとれそうな株は「種」札が掛けられる

収穫せずに種が採れるまで育てたキュウリ

会員へ送る、畑の様子、野菜の食べ方などが書かれたお便り

農園に家族がそろうと、とても楽しそうだ

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