農style fileVol.5

2009.12.22 UP

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宇都宮庸子さん・杉原俊明さん・河西博嗣さん

「野菜博士」の蒔いた種が、
一冊の本として実を結んだ。

テレビなどへの出演で「野菜博士」として有名な相馬暁さんは、道立農業試験場長や拓殖大学北海道短期大学の教授などを歴任し、北海道農業の発展のために全力で活動された。そして、北海道農業の豊かな未来へ向けて数多くの「種」を蒔き、2005年3月この世を去っていった。その後、「種」を受け取った人たちの協力により、単行本『野菜博士のおくりもの(中西出版)』が出版された。

野菜博士の遺伝子を受け継いだ宇都宮さん

宇都宮庸子さん相馬先生が蒔いたひとつの「種」を受け取ったのが、元STVアナウンサー・現在フリーアナウンサーの宇都宮庸子さん。宇都宮さんは番組の取材で先生と出会う。その親しみ深いキャラクターと野菜へのあふれる愛に圧倒され、先生と野菜の魅力にぐいぐい引き込まれていく。その後、先生がSTVのテレビ番組にレギュラー出演することになり、「そうま博士の野菜革命」を延べ約五年間担当。旬の野菜を求めて各地の畑を共に回った。どんどん野菜へのめり込み、2006 年にはベジタブル&フルーツマイスターを取得。現在もテレビで野菜情報のコーナーを担当しつつ、最近『野菜大好き!ノート(PHP研究所)』も出版し、野菜博士に最も大きな影響を受けた一人である。

八百屋の使命をたたき込まれた杉原さん

札幌の食材店「フーズバラエティすぎはら」店長の杉原俊明さんも相馬先生の「種」を受けとったひとり。八百屋に将来はないと絶望し転職も考えていた時期に、先生は異業種交流会の講師として現れた。まさに運命的出会いだった。「八百屋は大切な仕事だよ。スーパーに行っても(野菜のことは)何もわからないでしょ。あなたたちみたいな人が野菜をきちんと説明して売らなきゃいけない。大事な事をやらなくなってるんだよ」と叱咤激励を受け、八百屋の使命に目覚めた。改めて野菜についてきちんと勉強しようと決心を固め、野菜ソムリエの資格も取得。おいしい野菜を扱うことに情熱を注いでいる。現在の「フーズバラエティすぎはら」は、魅力いっぱいの野菜たちが、スタッフの愛情あふれるコメントとともに所狭しと並び、知る人ぞ知る野菜充実の有名店なのである。

遺志を引き継ぐ本づくり

2003年7月、宇都宮さんは相馬先生がガンに冒されていることを聞く。自らとても軽い感じで話されたという。しかし、先生は覚悟をされていたのかもしれない。ある日、宇都宮さんにこんな話を持ちかけた。「今まで伝えてきた野菜のことを本にできないかと考えてるんだ」。話がなかなか進まないうちに、先生の病状は悪化する。宇都宮さんは先生が語ってくれる野菜の話は宝物だと思っていたので、なんとしても本にしたかった。決心を固め「私がまとめてもいいでしょうか?」と病室のパソコンにメールを送った。「大いに賛成です。一緒につくりましょう。相馬」という返事で、宇都宮さんの本づくりがスタートした。しかし、先生はその一ヶ月後に亡くなられた。

亡き相馬先生が出版社を引き寄せた

相馬先生から託された本のイメージは「むずかしい本ではなく見て楽しんでもらえる野菜の本」。宇都宮さんはそれを実現すべく出版社を回った。しかし、カラーページを多用しなければならないでのコストがかかること、相馬先生が既に亡くなられていることもあって、ことごとく断られたそうだ。そんな矢先、STVの他の出版物を担当していた中西出版の河西博嗣さんと出会う。「初めて真剣に話を聞いてもらえました」と宇都宮さん。それには理由があった。河西さんは札幌農学校第三期生という、筋金入りの農業シンパ。しかも「相馬先生は元々あこがれだったんです。お会いしたかったです」ということなのだ。ここにも先生の蒔いた種は届いていた。

志を同じくする人たちが相馬先生の想いを形にする

相馬先生に心酔する河西さんにしても実現へ向けての状況の厳しさは変わらない。しかし、何とかして出版するということを前提に、どうすれば実現できるかというスタンスでこの企画に加わった。至った結論は「相馬先生への想いのある人たちの協力でつくりましょう」ということ。まず本に登場するたくさんの野菜の手配が必要だ。当然、杉原さんに声がかかる。「先生があちこちに種を蒔いていてくれたんですね。協力できることがあって、うれしかったです」と杉原さん。 宇都宮さん、杉原さん、河西さんという、ある意味必然的な出会いがこの企画を進展させた。さらに素晴らしい仲間たちの力添えをもらって、『野菜博士のおくりもの』は誕生した。

相馬先生の人柄そのものが一冊に

『野菜博士のおくりもの』は、“読んで、見て、食べて味わう本”。相馬先生が野菜たちにつけたキャッチフレーズとその想い、野菜たちと上手に付き合うためのアドバイスが、先生の番組での語り口そのままに紹介されて、非常に読み応えのある編集である。先生がナスにつけたキャッチフレーズは「大和なでしこ」。様々な調理方法に合い、「誰とでも添いとげられる」からだそうだ。思わずうなるような名コピー。読めば読むほど野菜が好きになっていきそうだ。そして、先生が“ビタミン愛の料理”と称して勧めた、作る人にも食べる人にもやさしい手軽な料理法まで添えられていて、まさに先生のキャラクターそのままの本、言い換えれば先生のイメージした通りの本に仕上がっているはずだ。

取材・文 森末 忍

写真 亀谷 光

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