農style fileVol.6

2010.03.08 UP

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新田由憲さん・みゆきさん

“農”が支える持続可能な暮らし。

旭川の東南東に位置する東川町は、大雪連峰を臨む写真と米の町。その水田地帯の一角に『ファーマーズ・カフェ風土』がある。笑顔で迎えてくれたのは、新田由憲さん・みゆきさんご夫婦。ファーマーズと名乗るのは、自らが『ファーム・レラ』として養鶏業を営んでいるファーマーであるから。『ファーム・レラ』は道産を中心とする安全性の確認できる国産飼料を使う平飼いの養鶏を営んでいて、彼らが送り出す『大雪なたまご』という卵は、安全でおいしいものとして評判だ。その『大雪なたまご』やケーキなど卵の加工品を、地場のおいしく信頼のおける農作物とともに味わってもらおうとの思いで作られたのが、『ファーマーズ・カフェ風土』だ。
自らの手で生産~加工~販売~サービスを提供しつつ、地域といい関係を保つという、理想的な形を作り上げている新田さんご夫婦だが、計画的にこの形を作り上げたわけではない。何度かアクシデントに翻弄され苦境に立たされながらも、結果的にはいい方向へと導かれてきた。それはふたりがベースに持っている、 “持続可能な、食べ物を自給する暮らし”という芯がぶれないことが大きな要因のようだ。

大阪からの移住者である由憲さん。「貨幣経済から影響を受けない生活に憧れてました」と原点を語る。言い換えれば、何でも自分でやれば、経済から自立して生きることができるということだ。その思いから、“持続可能な、食べ物を自給する暮らし”を求めて北海道へとやってきた。稚内出身のみゆきさんと結婚後、始めたのは中頓別での酪農。しかし、由憲さんが体を壊しあえなく断念。1996年、稚内市上勇知の離農農家跡地へと移る。そこで自家用に10羽の鶏を飼い始めたのが養鶏を始めるきかっけとなった。翌1997年、縁があって、近隣の養鶏農家から400羽の鶏を販売先も含めて譲り受け、養鶏業『ファーム・レラ』がスタートする。そして、オーガニックの野菜をつくったり、菜種油の搾油に挑戦したり、自給をベースとする暮らしを実践していた。
また『スペース・レラ』として、地域を盛り上げる様々な活動も展開した。ファーム・インとして様々な体験を受け入れたり、地域資源を活かすエコツアーを企画したりして、注目を浴びる存在でもあった。自分たちがその地に腰を据えて持続可能な暮らしを目指せば、当然その地域自体の持続可能な姿を考えることになる。地域の元気に貢献できるよう動くことは、新田さんご夫婦にとって、至極当然のことだったようだ。

養鶏とともに様々な活動が充実していた2006年、大変なアクシデントに見舞われる。鶏舎が火事になってしまい、ほぼすべてを失ってしまったのだ。このアクシデントで養鶏をあきらめかけたふたりだったが、知人を中心として数多くの人たちから驚くほどの見舞金が届き、それを元に養鶏は再開される。それだけふたりの存在・活動は、多くの人たちに認められ、必要とされていた。それに「ひよこを育てる箱だけが焼け残っていたんですよ」とみゆきさん。まるで「養鶏を続けなさい」と誰かに導かれたかのようだ。

このアクシデントは、新たな挑戦へのきっかけとなる。由憲さんは以前から稲作をやりたかった。自給の根幹とも言える米である。火事から一年後、養鶏をみゆきさんに任せ、単身妹背牛で有機栽培の米作りを学ぶための研修に入る。一年後には東川町へ移り、米作りのできる農地の取得を目指しながら、家族も合流する準備を進めていた。家族が東川に移るに当たり、養鶏は稚内でそのまま譲り渡す予定だったのだが、ここでも売買がうまくいかないというアクシデントで実現せず、東川町まで鶏たちも引っ越さざるを得なくなった。また養鶏業はついてきた。そこで急遽養鶏用の土地を探し、由憲さんは自ら、わずか一ヶ月で鶏舎をたててしまう。食の自給のみならず、“建物も自給”してしまうのである。これも持続可能な暮らしの秘訣といえる。

東川町で見つけた住居の傍には、元々カフェが営まれていた素敵な建物があった。それに手を加え、2009年5月『ファーマーズ・カフェ風土』はオープン。『大雪なたまご』と共に、東川町の特産である“米”を味わってもらう場になっていることはもちろんのこと、いろいろな人との出会いの場になっているようだ。ひとりでカフェを切り盛りするみゆきさんを心配して、手伝いに来てくれる人もいるという。もちろん心配もあるのだろうが、みゆきさんたちの農的暮らしに惹かれて、何かを求めてきている人もいるに違いない。それを感じてか、「若い方々の農的暮らしへの憧れの受け皿になれればいいですね」とみゆきさんは今後を語る。
現在、東川への移住・カフェのオープンなどに追われて、米作りの夢は少々ストップ中。しかし、“持続可能な、食べ物を自給する暮らし”という根本的な芯はぶれないから、またきっと良い形での未来が待っているはずだ。

毎年年末、『ファーム・レラ』からお客さんたちにあてて、メールが届く。「~ファーム・レラのたいせつなスモークチキン~素性の知れた道産飼料や地域の未利用資源をエサとして食べながら、卵を産んでくれた鶏さんのいのちを最後まで大切にいただきたい・・そんな想いがつまったスモークチキンです!!」
こんな新田さんご夫妻の“農”との接し方は、ますます多くの人たちの共感を得ていくことだろう。

取材・文 森末 忍

写真 飯塚 達央(http://www.photoseason.net/

ファーマーズ・カフェ風土(fudo)
上川郡東川町東4号北2番地
電話:0166-82-5443
営業時間:11:00~16:00
定休日:火・水
http://blog.goo.ne.jp/miyuki_rera
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