農style fileVol.7

2010.04.28 UP

home > 農style file > Vol.7 “農ある暮らし”を追求し、農村地域の可能性を見いだす。

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藤根鐘治さん・加藤知愛さん

“農ある暮らし”を追求し、
農村地域の可能性を見いだす。

三月の下旬、札幌の丘珠にあるビニールハウスでは、NPO法人グリーンライフさっぽろ(以下GLS)の会員による種まき作業が行われていた。この作業でGLSの共同農場の一年がスタートする。GLSは、札幌市の市民講座「さっぽろ農学校」の修了生が中心となって2009年に設立された、“農ある暮らし”の実現を目指して様々な活動を行う団体だ。会員には、農業者、農ビジネスを模索する人、研究者、農に興味を持つ若者たちなど多様な人が参加している。そして、産官学の豊富なネットワークを持っている。GLSの「様々な活動」について、理事長の藤根鐘治さんと副理事長の加藤知愛さんにお話を伺った。それは、壮大なビジョンを持つ、深いものだった。

農の世界に魅せられた人々が、自分たちの“農ある暮らし”を目指す。その気持ちが真剣であればあるほど、その行動が深ければ深いほど、そこには多くの課題やいらだちが待ち受けている。例えば自分の農園を持ちたくて、巡り会った近場の市民農園。そこには適切なアドバイスを与える指導者がいなかったり、それぞれが好き放題に使うので、農法の違いや、マナー問題など、なかなかうまくいかないといった悩みを抱えている。また、就農を目指す人は、そのハードルの高さにうちひしがれる。一方で、遊休農地・耕作放棄地の存在が問題になっていたり、安全・安心な農作物へのニーズの高まりがあったりする。“農ある暮らし”を目指す自分が、何かできそうなのに、できない、難しい、続けられない。
「さっぽろ農学校」で農に魅せられたGLSの人たちは、こういった現状を目の当たりにした。だから仲間を募ってNPOを設立し、自分たちの農園を持った。また、栽培技術を高める勉強の場もつくった。そして、先に書いた遊休農地のような、農村地域の課題まで踏み込んで“農ある暮らし=グリーンライフ”の実現を目指している。

GLSの現在の活動には、「農園事業」「人材育成事業及び起業支援事業」「農作物栽培技術研究事業」「農作物の販売及び野菜普及啓蒙事業」「市民交流」という柱がある。詳しくはGLSのウエブサイトをご覧いただきたいが、これらの活動には、特筆すべき点が二つある。ひとつは、“農”に関する研究部分の充実度と深さ。共同農場での野菜栽培についての技術研究や、生産の先にある展開の研究が、非常に充実している。実作業ベースのものもあれば、「公開セミナー」のような座学のものもある。これは農業者から研究者まで、豊富なネットワークを持つGLSならではの強みだ。
もうひとつは、農村での人材育成を含む起業支援に目を向けた点である。藤根理事長からはたびたび「生業(なりわい)興し」という言葉が発せられた。“農ある暮らし”の発展形は、地域に根付く新たな生業として成立することが不可欠なのである。これは、農村地域の過疎化や遊休農地・耕作放棄地の存在という課題にも対応する。北海道の農村地域で、農を核とした生業=ビジネスが成り立つならば、そこには人が集まってくるということである。農村で暮らしたい、農村で働きたいというニーズの多さは、昨年、ある団体が実施した全国10万人アンケートのデータでも明確に裏付けられていて、その数は実に40%に達するという。
「生業興し」に関しては、産官学の様々な動きを巧みに採りいれながら具体的に動き始めている。2009年度は北大と連携して、農村に移住して生きていこうとする人をサポートするマネジメント活動を美瑛町などで展開し、人材育成・起業支援への足がかりを作った。今年はその延長線上で、起業支援の常設塾を札幌市と美瑛町に立ち上げる。これはGLSが起業サポートをビジネス化する事業につながる。

このように自分たちがライフスタイルファーマーとして生きがいを見いだすことにとどまらず、農村地域の課題まで広げて考えてはじめて、多様な“農ある暮らし”を実現する環境が整う。同時に北海道の農村地域の可能性が見いだせる。ここまでGLSの活動を理解したとき、「社会企業家」という言葉が頭に浮かんだ。社会の抱える課題を、事業を通して解決していこうとする人たちの事である。GLSは、まさにこの「社会企業家」なのだ。北海道の農の抱える問題を明確に把握し、持ちうる資産・ネットワークをフルに活用して解決していこうとしているのだ。

社会企業家的な大きな動きをしながらも、GLSにとっては共同農場での活動が原点であり基本である。「農ある暮らし=を支えるのは農の技術です。まずは自分たちが成長していかねばなりません」と加藤副理事長。そこを出発点として、それぞれが“農ある暮らし=グリーンライフ”を実現し、幸せを感じ、その素晴らしさを広めていくのだ。
人々の“農ある暮らし”へのニーズは確実に高まっている。GLSへの期待も高まるだろう。また農村地域からもどんどん声がかかるはずだ。北海道の豊かな未来へ向けて、是非力を発揮して頂きたい。

取材・文 森末 忍

写真 亀谷 光

NPO法人グリーンライフさっぽろ
札幌市の市民講座である「さっぽろ農学校」修了生が中心となって設立。「農ある暮らし」に魅せられ、安心安全な野菜作りと持続可能な農 業、遊休農林地の再生活用、そして自然と向き合った新しいライフスタイルの創造を目指している。
http://glsapporo.net/
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