農style fileVol.8

2010.07.23 UP

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藤根鐘治さん・加藤知愛さん

クールでシニカルな口調の裏側に、
農業の明日に寄せる、
熱い思いがある。

のどかな田園風景が続く美唄市茶志内に、アスパラ栽培を営むうちやま農園を訪ねた。

うちやま農園は親子二世帯の農家。お話を伺ったのは息子で三代目の裕史さん。サラリーマン生活に終止符を打ち実家に就農したのは3年前、31歳のときだ。
大学で法学を学び、卒業後は大手住宅メーカーに勤務したり、人材派遣会社で人材活用関連の業務に従事した。最終的に転職した企業では、企業の経営調査の仕事に就いていたという。

“人材派遣会社では、全国トップの成績を収めたこともあった”という、バリバリのビジネスマンだった裕史さんが、家を継ぎ農家になろうと考えたきっかけとは何だったのか。
「将来どうなりたいかという社会人としての疑問を真剣に考えたことがきっかけのひとつかも。実家に帰ったりする中で農業の奥深さにも魅力を感じるようにもなってましたね。農業は知恵や技術そして体力も必要とされるビジネス。挑戦するなら年齢的にも今かなと」
裕史さんの就農に大きな影響を与えたのが、父の内山彰さんだ。彰さんは北海道で初めてアスパラの立茎栽培を導入したり、体験農園に取り組むなど道内のアスパラ営農者としては先駆者的な存在である。
「品質や作付け技術等に徹底的にこだわったアスパラを、露地に5ha以上作付けしている農家は全国にもそうないはず。父が現役のうちに、そのノウハウや英知を学んでおきたいという思いも、就農の後押しになりました」

たまたま通りかかった彰さんに声をかけ、午後からの農作業の段取りを告げる。その眼差しは、極めて真剣だ。
「一つ理解する度に、いくつもの疑問が頭をもたげてくる。まだまだ学ぶことは山積みです。今は知識も経験も、父の足元にさえ及んでないです。ま、ガキのレベルかな」と苦笑いだ。
淡々とした口調は、クールにもシニカルにも映る。しかし取材をすすめていくうちに、彼が農業に対し、人一倍熱い思いを抱いているのが分かる。

例えば農家の収益について。農作業はもちろん品種改良、作付け技術の研究… これら一連の農家の労働に対する対価はまだまだ低いが、その要因は流通のしくみや企業の対応だけではなく、農家自身の意識の低さにもあるというのが彼の持論だ。
その象徴のひとつが、実家の跡を継いだ若い就農者の営農姿勢、と彼は話を続ける。
「農業って長年の経験や試行錯誤の末に、収穫や改良、安定的な経営という結果を導き出すもの。だからノウハウも何もない新規就農者の人たちは、その部分で大変な苦労をしてるんです。僕らのように目の前に師匠がいて、無償で教えてもらえる立場って実はとても恵まれているわけですよ。だけど農家の息子の中には、そういった恩恵を全く活かさない人がいたりする。父母の経験に耳を貸さなかったり、自己流を貫いて失敗したり。ちょっと考えれば分かることなのに、なんでわかんないのかな、もったいないことしてるなと思いますね」
時折辛辣なフレーズが口を突く。しかしその態度や強い語気は己の意見に対する自信だけではなく、自分たちが農業の将来を担っているという使命感のあらわれのようにも思える。だからだろう、鼻っ柱の強さも妙に心地いい。

そんな裕史さんが発起人として参画するのが“REFARM HOKKAIDO”。道内の実家に戻ろうと思案している農家の息子さん・娘さんや、すでに新規就農した若手の農家さんを応援する団体だ。参加者が就農や営農の知恵、技術や情報を交わしあい、農家自体のスキルアップや意識改革の実現を目的としている。
「地道な活動だけれど、次代を担う若い農家が情報交流したり知識を共有したりすることが、農の世界の活路を拓くと思っています」

畑から引き上げてきた彰さんに声をかけてみた。息子が跡を継いだこと、彼の農業に関する意識や取り組みを、父はどう考えているのだろう。
「跡を継ぐことに関しては、期待と若干の不安がいり混じったような気持ちかな。ただ彼が一度サラリーマンを経験してから就農したのはよかったと思うね。社会やビジネスという大きな視点で農業を見据えることができるから」
彰さん自身も、広域的ネットワーク組織“そらちDEい~ね”の代表世話人として修学旅行生・研修旅行生の農業体験や宿泊を受け入れているほか、インターネットを通じて都会から体験農園の客を招いたり、営農関連の技術者や農業・食品の分野の研究者と情報交換するなど、さまざまな活動に積極的に取り組んでいる。今日に至るうちやま農園の成功の陰には、こうした地域内外の人々との出会いや、そこで培われる相互の技術の交流や錬磨があるのだ。
「家と畑の往復だけでは、発見もないし発想も生まれない。土と作物だけを眺めていても、その先に進んではいけないよね。だから息子にも、できることは何でも経験しなよっていってる。外に出て人に会い、どんどん意見をぶつけ合ってこいって」

ひとつ気づいたことがある。
裕史さんの農業に対する“クールかつ熱い姿勢”は、きっとお父さん譲りなのだ。

取材・文 山本 公紀

写真 亀谷 光

うちやま農園
北海道美唄市茶志内町3区
TEL:0126-65-2826
FAX:0126-65-2826
http://uchiyamanouen.com/
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