農style fileVol.11

2011.04.07 UP

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(株)北海道宝島旅行社 鈴木宏一郎さん

農村に活力を注ぎこむ
グリーンツーリズムの発想

北海道好きが高じて、北海道に異動、そして移住。

グリーンツーリズムという言葉をご存じだろうか。グリーンツーリズムとは、農村や漁村などにおいて自然、文化、人々とのふれあいを楽しむ旅行スタイルのこと。地域の活性化や余暇重視のライフスタイル尊重のためにヨーロッパで提唱されたもので、1990年代に入って、日本でも官庁を主体にその考え方が広まった。そして現在、民間レベルでこの活動に取り組んでいる一人が、北海道宝島旅行社の代表であり、「北海道グリーンツーリズムネットワーク」の事務局長でもある鈴木宏一郎さんである。

鈴木さんは九州生まれの大阪育ち。大学時代は仙台で過ごし、さらに北上して、現在北海道で働くというユニークな経歴を持つ。
「学生時代、バイクで全国各地をツーリングして回っていました。その時に訪れた北海道の印象が群を抜いてよかったんです。景色も自然もふれあう人もすてきで、あたたかくて…。言葉が通じる外国のようだと思いました(笑)」
大学卒業と同時に東京の大手就職支援系企業に就職。しかし人混みや蒸し暑さ、連日のラッシュにやられ、一度は退職を決意。しかし寸前になって“北海道への異動”という願いが聞き入れられ、札幌で働くことに。
「約9年間、その会社の北海道支社で働かせて頂きました。前半4年間の主な仕事は、企業の採用や研修のお手伝いなど。後半は、行政とジョイントし北海道への移住、道産品や観光の振興など地域の活性化に関する事業の新規立ち上げに携わりました。ま、私自身の道外への異動を避けるためというのが、その目的のひとつだったんですけれど(笑)」
こうした活動を展開する中で、地域で頑張っている方々、農家や漁師の方々に出会い、“この魅力あふれる人たちのために役立つ仕事がしたい”と考えるようになったと、鈴木さんは言う。都会から観光客や滞在者を招くグリーンツーリズムという言葉に出会ったのもこうした活動の最中だった。

「農」の世界は、北海道最強の観光資源です。

滞在型レジャーと書くとなんだか堅いイメージになるが、鈴木さんが言うグリーンツーリズムは、「都会に暮らす人が農村などに出向き、農作業やアウトドアを体験したり、産地ならではの農産物を味わったり、さらにホームステイしたり…。都会側からの観点でいうなら、気軽で身近な田舎体験のことです」
四季折々姿を変える雄大な自然、美しい農村風景、多種多彩なアウトドアや農業体験、さらにとれたてのおいしい食べ物。農村には、北海道の魅力がぎゅっと凝縮されている。事実、それらにふれようと国内外から多くの観光客が農村に訪れているが、その現場にいる農家の方々は、全くといっていいほど経済的な恩恵を授かってはいない。
例えば、昨今目にする機会が多くなった海外からの団体観光客。その中には、海外の旅行会社を通じて旅行を申し込み、安さを追及してバスやホテルを利用し、契約を交わしている一部の土産店にだけ立ち寄り帰っていく一団も珍しくないとか。確かにこれでは地元への経済効果は、あまり期待できないだろう。
「美瑛や富良野の風景に代表されるように、農村景観やその営みは北海道最大の観光資源。この地元の財産を使い、地元の人たちが自らの手で、“外貨(道外からのお金)を稼ぐ”というのがグリーンツーリズムの大きな目的のひとつです。そのためには、地元の人が宿泊施設を用意したり、安全で美味しい地元の幸を提供する場づくりや、地元ならではの体験や催しの演出などが不可欠。これがグリーンツーリズムの取り組みによって実現したい『着地型観光』なんです」

親身な情報提供に人が集い、感動が生まれる。

人的交流を深め、経済面での農村の活性化を実現する『着地型観光』。その促進のためには、専業・副業問わず、ファームインや農家レストラン、観光農園などの事業に前向きな農家の情報を収集し、都会に暮らす方にこれらの情報を積極的に発信していく必要がある。
そこで鈴木さんは、北海道内のアウトドアやクラフト、スクール、グリーンツーリズムなどの体験型観光プログラムをカンタンに検索でき、申し込みできるサイト「北海道体験.com」を開設。その中に、「ファームイン・農林漁業体験」というコンテンツを設け、「ファームインでのんびり羊飼い体験」「農家さんの民宿で農作業体験」「乳搾りやバターづくり牧場宿泊体験」など、自らの足で全道各地を訪ね回りながら収集した、ご当地観光情報を提供している。
「農村ならではの資源をツーリズム資源にする試みですね。ですから周辺の景観や地元の幸はもちろん、どんな体験ができるのか、どんな人に出会えるのか、どんなもてなしをてくれるのかなど、お伝えする情報も詳細にわたっています」
地元を知り尽くした鈴木さんならではの発想ときめこまやかな対応。海外の旅行会社ではこういった取り組みは真似できない。
だからだろう、このサイトを通じて農村に出かけたファミリーや若者たちの多くは、リピーターになる。そして、“名物じいちゃんに会いにあの農家さんのところに遊びに行く”とか、“またフットパスを楽しみ、美味しいものを食べたいから泊まりに行く”など、心からの感動を鈴木さんに素直に伝えてくれるという。
「修学旅行で北海道の農家を訪れた高校生の中には、帰るときには涙を流して別れを惜しむ子がいるんです。わずか一泊二日の時間を過ごしただけなのに…。でも、農村にはそのくらい濃密な時間が流れている。人の心を揺さぶる何かがある。僕はそれを一人でも多くの人に教えたいんです」
都会と農村をつなぎ、経済面や雇用面など地域にさまざまな波及効果を及ぼすグリーンツーリズム。しかしその最大の効能は、そこに集い、ふれあった人々の心の中に芽生える温かな感動なのかもしれない。

取材・文 山本 公紀

写真 亀谷 光、ほか北海道宝島旅行社からの写真提供多数

鈴木宏一郎さん
「北海道グリーンツーリズムネットワーク」事務局長
(株)北海道宝島旅行社代表取締役
http://h-takarajima.com
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