農style fileVol.12

2011.06.28 UP

home > 農style file > Vol.12 道産ワインの最大のファンであり、スポークスマンであり続けたい。

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株式会社ワインショップフジヰ 藤井敏彦さん

道産ワインの
最大のファンであり、
スポークスマンであり続けたい。

5月のとある日の昼下がり。札幌市南3条西3丁目、個性的な佇まいのワインショップフジヰに、専門料理店のオーナーやソムリエさらに一般の方など、十数名の客人が集った。みなさんのお目当ては、3つの北海道のワイナリーから運び込まれた新着の道産ワイン。それらが自由にテイスティングできるだけではなく、造り手の方とも直にお話を交わせるとあって、集いの場はなかなかの盛況ぶり。そんな賑わいの輪を穏やかな眼差しで眺めているのは、この催しの主催者であり、ワインショップフジヰのオーナーでもある藤井敏彦さん。自身のことを「道産ワインの最大のファンでありスポークスマン」と称して笑う。

ワインショップフジヰの前身、フジヰ食料品店は昭和初期開業の老舗。初代店主は、藤井さんの祖父。当初の商いの中心は果物だったが、1970年代の洋酒ブームを機にワインの販売にも着手した。三代目にあたる藤井さんが、店の手伝いを始めたのは彼が20歳の頃。
「最初は配達を手伝う程度。もちろんワインに関する知識などありません。祖父や親から仕入れを教わり、お客様とのお付き合いの中で銘柄や産地を覚え、さまざまな文献や実際にティスティングしながら、少しずつ少しずつワインを学んでいきました」
そして30年たった今、藤井さんといえば、ワイン通はもとより市内外の専門料理店からも厚い信頼を寄せられるワインのオーソリティ。彼の知識やアドバイスをもとにワインを選ぶお客様も数多い。

そんな藤井さんが道産ワインのとりこにしたのは、三笠市でぶどう栽培とワイン醸造に取り組む山﨑ワイナリー。出会いは2004年、そのきっかけはワイン醸造申請に必要な販売店の支援の要請だった。
「それまで北海道のワインと言えば、お土産品のイメージ。観光客が買い求めたり、道外の知り合いに贈ったりという使われ方が多かったんです。ですから北海道で農家の方がワインを醸造すると聞いたときも、さほど期待はしていませんでした」
しかしその思いは、数ヶ月後、見事に裏切られることになる。

話を元に戻そう。山﨑ワイナリーの販売支援を快諾した藤井さんは、オーナーの山﨑さんと何度か顔を合わせ、話を交わす中で、次第に彼の意欲や情熱に共感を覚えるようになる。いつしか藤井さんがショップのスタッフや家族を引き連れ、山﨑さんの農園にも足を運ぶようにもなっていた。
「それまでの“仕入れて売る”だけではないもう一歩深い部分からワインに携わりたいという気持ちになっていったんです。それに地元で頑張っている生産者を、地元で商いをしている自分たちが応援しなくってどうする、という使命感も湧いてきました」
こうして藤井さんはことあるごとに山﨑さんの農園の出かけ栽培状況を見たり、有志を集め収穫作業のボランティアなどに精を出すようになる。大地を直に踏み額に汗することで、理解できる生産者の気持ち。ひと房ひと房収穫することで熱を帯びるワインへの思い。遠く離れたフランスの天候は知る由もないが、三笠の天候は札幌とそう変わらないだけに、雨が続けばヤキモキし、好天に恵まれれば心も晴れていく。
「まさに自分も一緒にぶどうを栽培し、一緒にワインを仕込んでいる感覚。初めての経験なので、非常に刺激的だしなにより楽しかったですね」

2004年の秋、山﨑ワイナリーのワインが初リリースを迎え、藤井さんのもとにも渾身の一本が届いた。高鳴る鼓動を抑え口に運んだその味は…
「まさに衝撃的な味。それまでの北海道ワインのイメージを打破するような、極めてハイレベルな作品でした。と同時に、その製造にわずかでも関われたこと、そして 我が北海道でこんなにおししいワインができることがうれしくてたまらなかったですね」
おいしい道産ワインが完成したなら、次の課題はそれを一人でも多くの方に知って頂くこと。藤井さんは、持ち前のネットワークを使って顧客や飲食店に積極的にアピールしていく。
しかし藤井さんの口添えとはいえ、当初は誰もが半信半疑。ならばと藤井さんはあえて北海道産と知らせないで、テイスティングをお願いしてみる。
「すると確実に皆さんおいしいと目を見張るんです。そして道産ワインと知って2度ビックリする。なんだか痛快でしたね」
こうしたユニークな販売戦略(?)も功を奏し、山﨑さんのワインを買い求めるお客様や飲食店が急増。以降山﨑ワイナリーが醸造するワインは、毎年ほぼ完売御礼となっていった。

山﨑さんの成功も刺激となり、現在岩見沢や余市、奥尻島などでも小規模ながら独自のワイン製造に取り組むワイナリーが増えてきた。中には、道外のワイナリーと提携し自家農園のぶどうを原料としたオリジナルワインを提供する農家もあるという。
「もともと北海道は日本のワイン用のぶどうの約半分を生産している、いわばワインの最適地。こうなっていくのも必然だった気がしますね」と藤井さんも胸を張る。評判が評判を呼び、最近は道外から足を運ぶお客様も多いとか。今や道産ワインに対する認知や評価は、確実なものになりつつある。
「かつて札幌市内のフランス料理店の中には、ほとんどの食材をフランスから仕入れる店もありました。それが本当のフランス料理という考え方ですね。でも今は、北海道のおいしい食材を使う店がほとんどでしょう。ワインも同じ。新鮮で安全な素材とこだわりの醸造法でつくられる道産ワインのおいしさが周知されてきたんです」
とはいえ、道産ワインの今後に課題がないわけではない。小ロットゆえにある程度の価格でなければ採算がとれないこと。リピーターが思うように増えていかないことも悩みの種だ。
「品質や味わいを支持してくれるお客様がほとんどですが、その一方、目新しさだけで買い求められる方がいたのも事実です。だから道産ワインは、これからが本当の勝負。素材に醸造にもっと磨きをかけ、輸入ワインと対等ではなくそれらを凌駕するような味とクオリティを追求していってほしい。もちろん、私も精いっぱい応援するつもりです。それが 道産ワインの最大のファンであり、スポークスマンである私の使命ですからね」

取材・文 山本 公紀

写真 亀谷 光

株式会社ワインショップフジヰ
札幌市中央区南3条西3丁目1-2
http://www.wineshop-fujii.com/
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