農style fileVol.13

2011.12.16 UP

home > 農style file > Vol.13 十勝の大地で取り組む 大規模自然栽培。

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株式会社折笠農場 折笠健(ますらお)さん

十勝の大地で取り組む
大規模自然栽培。

自然栽培と聞くと、一般的には小規模な経営を思い起こしがち。けれど、十勝に広大な農地を舞台とした無肥料・無農薬の自然栽培に取り組んでいる方がいらっしゃるとか。さっそくお話を伺いに幕別町に向かった。

安心安全の追求、その先にあった自然農法

幕別町軍岡。パッチワークのような田畑が連なる緑豊かな田園地帯に、目指す折笠農場があった。迎えてくれたのは、本農場四代目の折笠健(ますらお)さん。
「無肥料・無農薬を取り入れている農地は、およそ25ha。豆を二種とジャガイモ、それに小麦を作付けしています」
もともと折笠農場は、古くから安心安全な農法や作物づくりには先駆的。現在の自然農法の前身ともいえる減農薬栽培を取り入れたのも、今から40年以上も前だった。
「父に先見の明があったのでしょうね。私がこの農場で働き出したときは、そういった減農薬の作物を関西方面に直接出荷していましたから」
学校を卒業し農場勤務を始めた折笠さんは、父親の意志を継ぎ、農の安心安全というキーワードをさらに深く追求していく。その先に見えてきたのが、無肥料・無農薬という農法だった。
「例えば農薬を使用していても、出荷時の検査で残留農薬がなければ安全だし、遺伝子組み換えにしても、弊害が出ているわけではありません。ただし、それは現時点での話。同じ作り方をしていて10年後、20年後に今と同じような収穫ができる保証はどこにもないし、今まで問題なしとされていた農薬や肥料が、ある日突然不認可となることもありえます。そんな見地から“真の安心安全”を追求したとき行き着いたのが無肥料・無農薬だったわけです」
さらに奇跡のリンゴで知られる青森のリンゴ農家の木村秋則氏との出会いも追い風になり、今から8年前、折笠さんはいよいよ自然栽培に取り組むこととなる。
ここでインタビューの冒頭から抱いていた質問を投げかけてみた。自然栽培は、慣行栽培に比べると手間も時間もかかるはず。そんな農法に、あえて大規模で取り組む理由とはなんだろう。
「ひとつは量の確保です。十勝は日本の食糧基地。私たち十勝の農家には、全国においしく安全な作物を、安定的に送り届ける使命があるんです。もうひとつは価格。小規模の自然栽培だとどうしても割高になってしまう。いくら安心安全な作物でも、日常的な暮らしの中で買えるものじゃないと、一般の食卓にも浸透もしていきません。慣行栽培の作物と同じくらいの価格で提供していくためには、北海道の一般的な大規模農家で成功させる必要があるんです」

自然のサイクルの中で育まれていく「種」

最初に自然栽培で作付けしたのはジャガイモ。実験的な意味合いもあり、約2haからのスタートだった。
「やはり最初は上手くいかなかったですね。無肥料無農薬は、当然のことながら病気にかかる確率が上がりますし、その分収量は期待できない。このまま出荷するなら、一般のジャガイモの数倍の価格をつけないと割に合わないけれど、それじゃ本末転倒ですしね」
それから折笠さんの試行錯誤が始まる。緑肥をいろいろと試してみたり、科学的・数値的な観点で生育法を探求しようと、弘前大学に様々な分析を申し込んだりもした。研究機関の先生方が、貴重な品種を取り寄せてくれたこともあったという。
そんな中で、折笠さんの心に小さな光を灯したのが、“自然のサイクルを理解していなければ自然栽培はできない、自分の畑のまわりにある山を見なさい”というリンゴ農家の木村さんの言葉だった。
「慣行栽培は誰かにそのやり方を教わらないとできない、でも、山を見て自然のサイクルを理解するということは、観察をして、肌で感じて、予測をすること。それは本来、農家が大昔から自然とやってきたことなのです。ジャガイモにとっての自然は、原産地の南米のアンデス。ならば極力水を与えないなど、アンデスの環境を真似ればいいと悟ったんです」
当然、品種にもこだわった。多種多様な種を検討し、この土地の気候に合うもの、病気に強いもの、収量を確保できるものを選定した。さらにそこから種を得るという自家採種に取り組む。
「これを翌年、翌々年と継続的に続けることで、次第にこの土地にあった品種へと進化していくのです」
さまざまな淘汰を繰り返しながら、その土地にあった「種」を育んでいくという自然の摂理。折笠さんの話を聞くほどに、自然栽培という呼称が、農業の一手法を表すものではないようにも思えてくるから不思議だ。

自然農法も、農の営みの選択肢のひとつ

現在、自然栽培を取り入れた折笠農場の農地は25ha。折笠農場の畑の三分の一を占めるに至っている。
「取引先からの要望が徐々に増えていき、技術的なことも少しずつわかっていくにつれて、自然栽培の畑を増やしていきました。作付けも十勝の代名詞でもある畑作4種にまで拡大しています」
病気や天候の影響を受けやすい面はまだ残ってはいるが、ここ数年収穫量は安定しているという。しかし折笠さんは自身が取り組む自然栽培はまだまだ発展途上だという。
「たとえば品種改良。慣行栽培の品種も今の高いクオリティになるまで40年の歳月を要しています。自然栽培に適した品種づくりは始まったばかり。同じだけの歳月と研究を重ねて、よりよい種づくりに取り組んでいく必要があるんです」
さらに味の向上も課題のひとつ。いくら安心安全な作物でも、おいしくなければ消費者は手を出さない。一般の食卓へのPRや理解、自然農法の農地面積を増やし、より一層価格を安定化させていくことも重要な命題だ。
もちろんこれらの課題に折笠農場だけで対応するのには無理がある。研究者や技術者に賛同いただき、一軒でも多くの十勝の農家に理解してもらうことが不可欠となるだろう。その辺りを折笠さんに問うとなんとも意外な答えが返ってきた。
「自分は単に自然栽培の農家を増やしたい訳じゃないんです。病害虫への耐性、収量や安定供給、安定価格などなど、慣行栽培には、自然栽培では太刀打ちできない、優れている点もたくさんある。十勝の農家全てが自然栽培を導入したなら、こういったメリットをすべて捨てなければならないことになります。それではリスクが大きすぎるでしょう」
自然栽培も、慣行栽培や有機栽培、特別栽培といった農法の中のひとつにすぎない。むしろこういった複数の農法と共存することで、自然栽培の意義や価値が明確化していく。自然栽培が唯一の正解ではなく、自分はたまたまその農法を選択しているだけ、実際に自分も慣行栽培の作物を買って食べていますしと折笠さんは笑う。
「だから農家も、消費者も選べばいい。品質、価格、味…その人の観点や視点を通して、農法や作物を選択することが肝心なんです。そんな中で自然栽培を取り入れる農家が増えたり、食卓からのニーズが高まったりすることが、真の意味でこの農法を強く逞しくしていくと思うんです」

選択と淘汰を繰り返す中で「種」を育む自然栽培。そしてこの農法自体もまた農家や一般の消費者に選ばれ支持されることで、北の大地に、より深く根づいていくのだろう。

【お知らせ】
2012年6月9日(土)十勝千年の森にて木村塾が開催される予定です。
全国に徐々に広がっている自然栽培ですが、生産者だけが増えてもダメ、消費者も同じように増えていくことで食卓に根付かせたいという願いを込めて。
木村さんの講演だけではなく、全国で無肥料無農薬で栽培された作物の食べくらべや、苗の販売なども予定しています。
イベントの詳細は下記Webサイトにアップされますので、ご確認ください。
●木村秋則自然栽培研究会 北海道の会
 http://kimura-akinori.jp/about.shtml

取材・文 山本 公紀

写真 亀谷 光

(一部写真提供:山本 謙司 http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/

株式会社折笠農場
中川郡幕別町軍岡393番地
0155-54-3111
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