農style fileVol.15

2012.05.29 UP

home > 農style file > Vol.15 母親ならではの思いとアイディアが詰まった『とかちの畑でおさんぽランチ』

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いただきますカンパニー井口芙美子さん

母親ならではの思いと
アイディアが詰まった
『とかちの畑でおさんぽランチ』

母親が生み出した、十勝と子供への愛情が溢れる会社

2012年春、“畑と人をむすぶ”小さな会社が十勝で誕生した。代表を務める井口芙美子(いのくちふみこ)さんは、十勝の魅力に惹かれて札幌から帯広へ移り住んだ人のひとりである。帯広畜産大学を卒業後は、ネイチャーガイド、十勝観光連盟、都市と農村漁村を結び農家民泊などの受け入れ窓口を行っているノースプロダクション(浦幌町)など、自然や農、観光に関わる様々な仕事を経験した。そんな仕事をする中で、大好きな十勝の魅力はすぐそばの畑にたくさんあるのだから、自然体験と同じように十勝の畑を案内できないかと考えるようになったそうだ。
そして、3歳と5歳の2児の母親である井口さんが手がけるものには、母親ならではのアイディアがふんだんに盛り込まれている。今後会社の事業の中心となる『とかちの畑でおさんぽランチ』をはじめ、これまでに手がけてきた保育園での『おむかえまるしぇ』や『親子での料理教室』など、全てが母親らしい発想で考えられている。根本にあるのは「子供たちの未来のために、安心して受け継いでいける豊かな社会をつくりたい」という母親としての願いなのだ。全くぶれることのない母親としての目線や井口さんが発する言葉からは、子供たちへの力強い愛情が伝わってくる。そして、主婦の趣味のひとつで終わるのではなく、ビジネスとして地域に貢献し、たくさんの人に関わってもらえる仕組みをつくり出そうと、会社を立ち上げて歩きだした。

「いただきますカンパニー」という名前に込められた思い

決めるまでに3カ月ほど悩んだという社名は『いただきますカンパニー』という。料理のつくり手や生産者、そして自然の恵みや命をいただくことに感謝の気持ちを込めた“いただきます”という日本特有の言葉。アメリカやヨーロッパには同じ意味を持つ言葉は見あたらない。最近は“いただきます”の意味を日本人でも忘れかけているが、ある程度の年齢の人ならまだかろうじて感覚的には知っていて、誰かに尋ねられたら答えられるだろう。ただ、複雑になってしまった社会環境のせいなのか、その心を感じられる機会は減っている。「“いただきます”の気持ちを感じられるきっかけをつくり、その気持ちを伝えていくことで、食べ物だけじゃなくコップや椅子や身の回りのもの全ても同じように様々な恵みや命をいただいてできているんだと、いつかみんなに気付いてもらえる。そういう感謝の気持ちを大切にする人が増えていくと、自然環境や国内産業などの様々なものが守られることにもきっとつながっていくはずです」と井口さんは言う。
まずは家庭の食卓から始まり、「家庭の食卓が変われば、地域が、社会が、世界が変わる」と井口さんは考えている。それはとても大きなことのように聞こえるが、「自分ひとりでやるのはなく、共感してくれる仲間と一緒に、共感してくれる人を一人ずつ増やしていくだけです」という井口さんの言葉を聞いていると、とても簡単なことのようにも聞こえてくる。そしてその小さな一歩が、子供たちの未来のための豊かな社会へとしっかりとつながっていくのだ。

とかちの畑でおさんぽランチ

畑と人をつなぎ、“いただきます”の気持ちを取り戻すきっかけを提供すること、これがまさに会社の中心事業となるのだが、具体的にはどんなことをするのかを尋ねてみた。すると、参加者と一緒に畑をお散歩して、ランチを一緒に食べるだけだという。畑のまわりにある広大な自然、作物が成長している姿、畑に棲む虫、道端に咲く花など、収穫や農作業体験がなくても畑には魅力的なものがいっぱいある。そして参加者をおもてなしするのは「いただきますカンパニー」のスタッフで、農家さんにはランチタイムに参加者と一緒にご飯を食べながら交流してもらう。ここにも井口さんならではのアイディアが隠れている。
畑でのイベントを企画する時にどうしても課題となるのは、農家さんにもサービス精神を求めてしまうところにある。普段、人とあまり接することなく黙々と働き、味はあるがちょっと無骨な感じの農家さんに愛想笑いができなくても仕方のないことだ。農家さんはサービス業ではないのだから。ただ、農家さんの対応よって参加者の満足度が左右されてしまう重要なポイントであることも事実である。しかし、スタッフが事前に畑のことを学び、参加者をおもてなしする、参加者に見てもらうのは普段通りに畑で黙々と仕事をする農家さんの姿、興味を持った参加者がランチタイムに農家さんへ質問を投げかける。この運営方法なら、お客さんを受け入れる農家側のハードルは極端に低くなるし、どこの畑でも、一定のサービスや満足感が提供できる。企画をする人、料理が得意な人、話が好きな人、それぞれが得意なことを持ち寄ることによって、誰もが参加しやすくなるように考えられている。この仕組みを聞いた時には、同じ様に畑でのイベントを企画することもある立場として、まさに目から鱗が落ちる思いだった。
更に、畑を案内するスタッフは、その畑がある地域に住む学生や主婦になってもらいたいという。ボランティアではなくアルバイトとして。各地域のスタッフは、自分が住む地域の魅力を再発見し発信者のひとりとなり、そしていつか「ネイチャーガイド」のように「畑ガイド」もひとつの職業になれたら…、井口さんの夢はどんどん広がる。
この『とかちの畑でおさんぽランチ』は、特別なお取り寄せではなく、いつもの食卓に並べられるような食材をつくっている畑で開催する。また作物がどのようにつくられているのか、どうやって料理するのかをあわせて伝えていくことで、家庭の食卓に地元の作物が並んだり、手作りの料理が一品増えたりという小さな一歩へとつなげていこうと考えているのだ。

「おむかえまるしぇ」と同じように
地域に根付く活動をビジネスとして

数年前に井口さんが手がけたもののひとつに「おむかえまるしぇ」がある。当時は娘を保育園に預け、買い物にいく暇もなく働いていた井口さん。知り合いの農家さんに分けてもらった初物のニラがきっかけとなった。そのあまりの美味しさに、「こんなも美味しくて安全な地元のものを、同じ園の子供たちにも食べさせてあげたい。保育園の玄関先で子供のおむかえ時間にあわせて野菜を販売してくれるようなマルシェがあれば」と考えた。数件の農家さん、保育園をはじめ様々な人の協力で「おむかえまるしぇ」は実現し、毎月定期的に開催されるようになった。その後、ご主人の転勤により井口さんは帯広を一度離れることになったが、発起人が抜けてしまった今でも2カ所の保育園で「おむかえまるしぇ」は続けられている。
このように井口さんは、地元に根付きそこから広がる輪を大切にしている。そして、より多くの人に関わってもらい広く伝えていくためには、しっかりとビジネスにしていくことが必要だという。ビジネスにすることによって雇用を生み出すことができる。雇う側と雇われる側という主従関係ではなく、共感してくれる「仲間」がイキイキと働ける場をつくりだそうと考えている。
働く側も、参加する側も、何も知らない人が聞いても面白いと思うツボを刺激する方法は? より人の心に響く伝え方は何なのか? そんな発想から生まれた『とかちの畑でおさんぽランチ』には、『菜の花畑のお花見』『チーズの赤ちゃんをつくってみよう』『黄金の小麦畑見学会』など、名前だけでワクワクしてしまうようなラインナップが並ぶ。そして、魅了たっぷりの人たちが集う場になりそうな予感がする。さあ、みんなで畑におさんぽに行こう!

取材・文 伊藤 新

写真提供 いただきますカンパニー

いただきますカンパニー
帯広市西12条南29丁目2-5
TEL:0155-29-4821
FAX:050-3730-5127
http://www.itadakimasu.cc/
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