農style fileVol.19

2013.12.16 UP

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ヴェール農場 坂東達雄さん

“商品としての札幌黄”を作り続けるプロフェッショナル。

ごく当たり前に存在する野菜のひとつ、玉ねぎ。血液をサラサラにするとか、高血圧に効くとか、昨今その効能も評判が高い。札幌には「札幌黄」という在来種(その地で長く作り続けられて、土地になじんだ種)の玉ねぎがある。その特長は味。甘さと辛さのバランスが抜群で、調理に向くため、料理人からも評価の高い玉ねぎだ。しかし、病気に弱く変形が多いなど栽培が難しい品種で、長期保存に向かないという欠点もある。そのため、昭和50年代半ばに病気に強く大きさが揃うF1種(一代交配種)が登場すると、生産量は激減し「幻の玉ねぎ」とも言われる存在となった。それでもごく少数の農家が札幌黄を守ろうと生産を続けているというのが現状だ。ただ、最近では地産地消や在来種への関心の高まりもあって、札幌市東区を中心に札幌黄を応援する『札幌黄ふぁんくらぶ』という動きが始まるなど、生産を続けてきた農家にとっては追い風が吹き始めている。

今回はその札幌黄の生産者、江別市角山にあるヴェール農場の坂東達雄さんを訪ねた。元は札幌市丘珠で代々続く玉ねぎ農家で、坂東さんで五代目。空港整備事業のため平成14年に現在地に移転し、玉ねぎを中心に16haの畑を手がけている。10月初旬の取材時、丁度収穫間もない札幌黄が、倉庫に整然と積まれたコンテナに収まっていた。その数個を手に取りながら説明してくれた。
「まだ出荷はしないんですよ。もう一ヶ月ほどは倉庫で寝かせます。そうすると糖度が13度程度まであがるんですよ」
他品種の糖度は10度前後ということなので、札幌黄は相当甘い。収穫後のこのひと手間が甘さを引き出すポイントということだ。そして驚かされたのは、長玉や変形が多いゆえの、正品率の低さ。ちょっと話を伺っただけで、F1種に押されて生産量が激減した理由にも納得がいく。では、なぜ坂東さんは札幌黄をつくり続けたのか?
「ニーズがあったからですね」
厳しくなった時期にも、出荷時期の違いから九州でのニーズがあったり、個人ブランドで売れる場所もあった。大手飲食チェーンへの出荷もあった。どうしようもない逆風が来たときは空港整備による畑の移動という転換期が助けてくれた。そしてまた引き合いは続く。いずれにせよ、“坂東さんの札幌黄”はマーケットで求められていたのだ。

坂東さんの札幌黄づくりを教えてもらった。まずは種。100年以上続く自家採種。在来種の種は、農家にとっての生命線ともいえるもの。「いい家系を選んで種にするのが基本」とのことだが、その採り方・選び方には100年以上の歴史が積み重なっている。そして苗作りをせずに直播。苗から定植する際の根へのダメージをなくすのだそうで、その方が長期保存がきく。これも長年の経験から感じ取ったノウハウ。また収穫方法も独自だ。
「うちは葉っぱ付きで収穫するんですよ。その方が乾燥しやすい。北見方面じゃ多いんだけど、札幌じゃ珍しいみたいですね」
そして糖度アップのために収穫後に寝かせることも、試行錯誤の末にわかったこと。
すべてが経験に裏打ちされた生産技術。いい札幌黄を作るためには徹底的に手間もかける。感心していると、「農家は手間を惜しんだらお金はいただけませんよ」とニヤリ。「今でも三日は徹夜できますよ」とも。
話を伺っていると、“商品としての札幌黄”を追究する熱意がひしひしと伝わってくる。坂東さんの札幌黄を求める人たちの気持ちが理解できるような気がしてきた。
とある札幌のカレー専門店に、札幌黄がまるまる一個乗っているメニューがある。その札幌黄は坂東さんのもの。なかなか商品を出すことを承知しない坂東さんに、カレー専門店のオーナーが何年も通い詰めてお願いし続け、やっと実現したというメニューだ。飲食のプロにそれだけ求められる坂東さんの札幌黄。食べてみると、なるほど、さわやかで優しい甘さ。玉ねぎの甘さを味わってもらいたいがために作っているメニューといえる。そのオーナーの坂東ブランドの札幌黄への思い入れが十分に伝わってくる。

確かな生産技術を持っていても、札幌黄のニーズをつかんでいても、そしてブーム的な追い風が吹いたとしても、坂東さんはその経済性という点で、札幌黄は栽培品種として厳しいことを理解している。だから次にできることを着々と準備中だ。
「加工と販売までやろうと思ってます。形が不揃いでも味はいっしょ。刻んで加工してしまえば、その甘さを活かした商品ができるんですよ」
今や各所で耳にする六次産業化だ。坂東さんにとっては、ごく必然の流れでそこに向かいつつある。
「他の人と違うことをやらないと付加価値はつかないでしょ」

農場を見学すると誰でも気づくであろうことがある。見事なまでに整理整頓されていて清潔なのだ。美しさまで感じるほどである。その理由の一つは、ヴェール農場が『JGAP認証農場』に登録されていることだ。JGAPは食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証で、農場管理・栽培管理などについて120項目以上の基準に適合しなければならないという、かなりハードルの高いものだ。北海道では2013年12月現在、62の農場が登録されていて、札幌近郊の玉ねぎ農場としては初めての登録とのこと。味という品質は当然として、安心・安全という付加価値も加えていきたいという坂東さんの徹底したこだわりが感じられる。

坂東さんは、商品としての野菜を本当の意味で理解し追求しているプロだと思った。坂東さんにそう告げると、「いやいや、セミプロ、セミプロ」と返ってきた。まだまだ上を目指しているのだ。さすがである。

取材・文 森末 忍
写真 亀谷 光

ヴェール農場
(有限会社グリーン坂東・北海道アグリ企画株式会社)
江別市角山442-4
http://www.vert-ferme.com
◎ヴェール農場は『JGAP認証農場』。見事に整理整頓された農場は、農場管理や栽培管理などの基準をクリアしている証である。
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