農style fileVol.20

2014.07.03 UP

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農業生産法人 株式会社コムズファーム

コンサルタントが、
農家になった。

新規就農者の多くはロマンを抱いて農業の門を叩く。けれどもロマンだけでは乗り越えられない壁にぶつかり、やがて経営感覚がいかに大切であるかを知る。
コムズファームはビジネスの視点から農業に入った。これが、農業生産法人 株式会社コムズファームの性格を決定づけているといっていい。

コムズファームのツートップ、代表取締役の竹ノ内 久さんとゼネラルマネージャーの高野由美さんは、ともにバリバリの経営コンサルタントだ。竹ノ内さんが代表取締役を務める株式会社コムズワークで地域活性化、つまりまちづくりのコンサル事業を行っている。
そんな二人がどうして農業の道に?

コンサルタントの仕事に壁を感じ始めたことがきっかけです、と高野さん。
「今の世の中、どんなに考え抜かれたビジネスプランを打ち立てても、経営者の努力だけでは乗り越えられないことが多くなってきました。自分たちはコンサルとして何ができるのか、そもそもコンサルとして必要とされているのか……。先行きが見通せず、自分たちの道を模索していました

そんなとき、あるお客さまから相談を持ち込まれる。
「遊休施設を活用した農業の六次産業化拠点を作りたいという話でした。竹ノ内はすぐに水耕栽培の先進事例を見学してビジネスプランを組み立てていきました。ところが紆余曲折あってコンサルティングの仕事自体がなくなってしまったんです。その頃には経営として成立する可能性も見出していました……」

自信のあるプランだっただけに、忸怩たる思いだっただろう。
それからひとり悶々と考えていた時間が竹ノ内さんにとって長かったのか短かったのか、
「だったらオレがやる」
ある日、竹ノ内さんの口から突拍子もない言葉がついて出た。

今だから言えることだけど、と高野さんは続ける。
「竹ノ内から最初に農業をやると聞いたとき、『この人、バカじゃないの?』と思いました。実はわたしの母方の実家が米農家で、両親や祖父母、親類がいやになるほど苦労しているのを目の当たりにしていたからです。農業で儲かるというイメージはありませんでした。でも、竹ノ内から水耕栽培のプランを聞くうちに、『もしかしたら』と徐々に考えが変わっていったんです」

水耕栽培は土を使って作物を育てる土耕栽培と比べ、生育環境をコントロールしやすいので農業経験が少なくても始められ、季節に関係なく通年栽培ができるのが大きな特徴だ。
竹ノ内さんのプランでは、いわゆる植物工場のような大がかりな施設ではなく、原始的な水耕栽培設備のため初期投資も少なくて済む。経験が浅く、資本に乏しい新規就農者向けのスタイルであることに、二人は可能性の芽を感じ取ったのだ。

2012年秋から土地探しを始め、半年後には現在の石狩市花川の用地を見つけて購入。面積は2.7ha。水耕栽培をやるにはもてあましてしまうほどの広さだった。
「この土地との出会い、土地を所有していた杉中さんとの出会いがなければ、今のコムズファームはありません。農業の先輩である杉中さんがわたしたちのチームに参加してくれたことで、できることが格段に増えました。当初は水耕栽培だけの予定でしたが、土耕栽培という第二の柱も加わりました。次から次へとビジネスプランが溢れ出て、コムズファームの形が作られていきました。杉中さんとの出会い、こればかりは本当にご縁です

2013年6月28日、コムズファームがスタートする。
1年目は実験の年と位置づけ、土耕栽培ではさまざまなハーブや定番野菜を植えて、売れる作物を見極めた。水耕栽培は小松菜、水菜、リーフレタス、サラダホウレンソウの4種類に絞って栽培を行い、繰り返すことで技術を確立していった。

2年目となる今シーズンは、無農薬の水耕栽培、慣行の土耕栽培に加えて、自然栽培の準備を進めている。水耕、土耕、自然栽培。3つを並行して行うというのも新規就農のスタイルとしては珍しい。
一つの農法に特化するのではなく、リスクを分散させながら、足りない部分を補い合う。3つを手がけることで相乗効果を生み出そうというのが、そのねらいだ。
「慣行栽培はダメとか、有機栽培が優れているとか、農法としてどれがいいかなんて優劣を付けるつもりはなくて、わたしたちが大事にするのはそれぞれに見合った適正な価格で安定的に作物を供給し、ビジネスモデルとして確立することです。技術も知識も違う。覚えることも3倍だから、やるのは大変ですけどね(笑)

彼らはまた、障がい者の就労支援にも取り組む。
「誰でも働きやすい農場を作る。それもわたしたちのめざすところです。うちでは就労継続支援B型事業所の指定を受け、心身に障がいのある方の受け入れを行っています。水耕栽培は通年栽培が可能なので、冬の間も働くことができます。農業というと肉体的にきついイメージがあるけど、腰高のプラントなら比較的楽に作業をすることができる。それ以上に頑張りたいという人は、うちは土耕もやっているから土の作業にも挑戦できる。個々の体の状態や心の持ちように応じて働く場を提供することができます。わたしたちは彼らを『利用者』と呼ばずに『クルー』と呼びます。一緒に働く“仲間”だからです」

現代農業の課題は「人」「燃料」「販路」の3つを確保することである、と高野さんは指摘する。コムズファームはその一つひとつに対して、実に彼ららしいやり方で課題解決に挑んでいる。
「人」に関しては前述の通り。農場をバリアフリー化し、誰でも働きやすい環境づくりをめざしている。
「燃料」に関しては、廃食用油をリサイクルした新エネルギー(BDF)に取り組み、冬場の暖房費削減に努める。
「販路」は市場流通と直接販売の二刀流。市場を基盤としながらも、それに翻弄されることのないよう、催事での直接販売でファン作りを行う。
「わたしは今、月の半分ぐらい催事に出ています。チ・カ・ホ(札幌駅前通地下広場)とか、いろんな場所に出没して野菜を売りまくっています。催事の目的は顔売り、名売り、味売り。ファンを増やし、ゆくゆくは石狩農場にお客さんを引っ張りたい。今はまだここには畑しかありませんが、近い将来は野菜倉庫を建てて、野菜の周りに人が集う空間を作りたいですね。子どもたちを集めて食育活動もしたいし、農場内かどうかはさておきカフェみたいなこともできたらいい。地域の人と地域外の人が交流する場にしていきたいですね。
構想はいろいろあります。たとえば、野菜を買いに来たお客さんには家庭で出た天ぷら油を持ってきてもらって、独自のエコポイントと交換する。ポイントが貯まったら野菜をプレゼントする。もらった天ぷら油はうちで精製して冬の暖房燃料に使い、次の野菜を生産する……。そんな、エネルギーの域内循環システムを作り上げることもできるでしょう。
わたしたちがめざすのは、活動を通じて食卓と農場の距離を近づけ、人びとの暮らしと農業を繋いでいくこと。地域密着型のコミュニティ・ファームという役割を担うことです」

高野さんの夢は膨らむ。「石狩農場に人が集まるコミュティ・ファームのモデルが完成したら、それを北海道のほかの地域にも持っていきたい。結局、わたしは根っからのコンサルなんですね。究極のところ、未来に続く農業の形を作っていきたいという思いがあります。このビジネスモデルを完成させるまでに10年かかるかもしれない。でも……」と自信ありげな笑顔。
「農業の実務経験を積んだコンサルは、一般の人より、何倍も何倍も強いですよ(笑)

さて、高野さん。現在は7:3のパワーバランスで農業とコンサルの仕事を掛け持つ。農業を始めたことでコンサルの仕事にも影響があったそうだ。
「そうそう。やさしくなったって言われます(笑)。考え方が少し農業よりになったというか。ある程度、自然のサイクルに身を任せることを覚えたのかな。これまでだったら『目標を達成するまで寝ないでやれ』と言っていたところを、『今日できなくてもしょうがない。明日また頑張ろっか』と言えるようになったんです。同じゴールをめざすにしても、違うやり方があることに気づいた、といったらいいのかな。農業をやっているとね、自分の思い通りにならないことがこんなに多いんだって。ほんと毎日そんなことばかりですから」
そう朗らかに笑う高野さん。
コムズファームはビジネスの視点から農業に参入した。けれども儲けることだけが目的じゃないことは、農場で働く人たちの笑顔を見ればわかる。「高付加価値作物だから」と口では言いながら、自然栽培の原始的な魅力に引き込まれていたり。BDFを採用した理由を「コスト削減のため」としながら、地球環境のこともちゃんと考えていたり。お金の話をしてもイヤらしくなく、農業の話をしても土臭くない。その絶妙なバランスが、コムズファームの魅力なんだろう。

取材・文 長谷川 圭介

写真 亀谷 光

農業生産法人 株式会社コムズファーム
石狩農場
石狩市花川東472番地7
受注電話:0133-76-6406
受注FAX:0133-76-6407
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