農style fileVol.21

2014.08.11 UP

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北海道池田町観光協会 事務局局長 佐藤恒平さん

ワインの町の
うま~い企み?!

〜池田町の“胃袋から観光PRプロジェクト”

昨年夏、札幌の著名ホテルのレストランで、池田町の食材を味おうという催しが取り行われた。今年は、札幌の飲食店でも池田町の農畜産品を使ったイベントが予定されているという。ブームというにはまだ早いだろうけれど、なにやら池田町の生産者たちが新しい取り組みを始めているような…。そんな折、札幌の飲食店の方々がその打ち合せで、池田町に足を運ぶとの話を耳にした。これ幸いとばかり、農スタイル取材班も同行させていただいたのだ。

仕掛け人佐藤さんが在籍するのは…?

ワイン色のTシャツをまとった体に、まん丸い顔が乗っている。池田町で飲食店オーナーや取材班を迎えてくれたのは、佐藤恒平さん。頂いた名刺には「池田町観光協会事務局長」なる肩書が。ん?観光協会?
「そうなんです。自分は観光協会の人間。なのにいつのまにか町の食をアピールする役割になっちゃって…」

佐藤さんの経歴を簡単に記そう。出身は札幌。人材派遣会社の営業や雑誌屋の広告営業を経験した後、2009年の求人募集を機に同町の観光協会に赴任。それから数年間は観光パンフの制作やワイン祭りのサポートなど、定番化した仕事を“粛々と”こなした。プライベートの時間はコネクションづくり。「呑みの誘いは一切断らない」を己のテーマと位置づけ、業種を問わず人脈を広げていったという。

胃袋を通じて池田町の魅力をアピール

そんな日々を過ごす中、佐藤さんはいくつかのことに気づく。ひとつは、池田町には実にユニークな生産者たちがいること。そして彼らが他にはない魅惑的な食材を生産しているということ。さらにそれら味わいが、地元のワインにぴったり合う特性を有しているということだった。
「その一方で、こんなに恵まれた環境にあることを、町民ですら知らないという事実にも気づきました。池田はワインの町。自分たちにとっても対外的にも、その称号で充分だろうみたいな」

もったいない、実にもったいない。佐藤さんの中で小さな火種がくすぶり始めた。この池田町の素晴らしい財産を周知させる手立てはないか。自身の使命である観光振興に結び付けることはできないだろうか。やがて火種はアイデアに変わる。
「池田のとびきりうまい食材とワイン、さらに観光PRツールをパッケージにして、札幌に持ち込むのはどうだろう」

池田町の観光施策は、どちらかというとお客様が来るのを待つというスタイル。佐藤さんの発想は、この考え方から脱し自分たちが都会に乗り込んで町の魅力をまるごと売りこんでみようという、いわば逆転の発想だ。奇策ではあったが、自信はあった。
「それくらい本当にうまい食材ばかりでしたから。食べてもらえりゃ、わかる。食べてもらえりゃ、 産地を知りたくなる。パンフやポスターを手にすれば、町に足を運びたくなるはずだと」

佐藤さんには札幌時代に築いた飲食店やホテルとのネットワークもあった。話を聞いてくれそうな人の顔もいくつか浮かぶ。いや、その前に生産者の方々の承諾と協力を取り付けなければ。
「どなたも真剣に話を聞いてくれました。ビジネス以前に、故郷の池田町を盛り上げたいというのが、みんなの共通の思いだったんです」
こうして胃袋を通じて池田町をアピールするというプロジェクトが、佐藤さんの属する“観光協会”の主導で動き出したのだ。

うまい肉とワインと山わさび

ところで、池田町ならではの旨い食材とは誰が作る、どんなものだろう。佐藤さんは得意気に、“極上の肉ですよ”と言った後こう続けた。
「まずはいけだ牛。小原秀樹さんら地元酪農家が育てるあか毛和牛です。程よい霜降りとジューシーな肉質が特徴で、余分な脂肪がない。牛肉本来の旨味が楽しめます。これがホント旨い」

続いての食材は羊肉。シープドッグとともに約1,000頭の羊を飼育するオーナーの安西浩さんは、自身が生産する食肉を“食べやすい”と胸を張る。事実、食肉の取引しているのは全国のレストランやホテル。ほとんどがリピーターだ。

3つ目は豚肉。地元養豚家の阿部雄元さんが、20年ほど前から飼育する純血の黒豚品種だ。“自分が本当に旨いと思う肉をつくりたくて”がきっかけだけあって、飼育に対するこだわりは人一倍。餌は自家配合、敷きワラや徹底した温度管理など、まるで愛玩動物を飼うかような徹底ぶりだ。

この3種の極上肉のおいしさをさらに引き立たせる薬味として、地元の若き農業人吉田岳大さんが丹念に栽培する「山わさび」をチョイス。これをひとつの皿に豪快に盛りつけし、池田の十勝ワインとともに胃袋に流し込んでいただくというのが、佐藤さんの思い描いたご馳走プランの全貌だった。

波紋のように広がる成果と影響

昨年夏のある日、佐藤さんは札幌中心部のホテルのレストランフロアにいた。入口には『とかち池田町フェア』なるサイン。ホテルはこのために「いけだ牛」を一頭買いし、山わさびを添えた多彩な料理で多くの人々の舌を楽しませた。6月下旬には「十勝ワイン50周年感謝パーティ」と銘打ち、例の三種の極上肉を和洋中さまざまな料理で提供した。さり気なく差し出された観光パンフにも、客の多くが楽しげに目を通す。端で目を細める佐藤さんの予想を超える盛況ぶり。一ヶ月に及ぶロングランの催しだったが、お客様からさらにホテルのシェフからも、賞賛の声が届いた。

始まりは小さな疑問とささいなアイデア。しかしそれは確かな成果を生み、生産者や飲食店など各方面に多彩な影響を広げていった。

めん羊の安西さんは「一人でも多くの人に食べてもらうことが一番の喜び。この催しは生産者にとって大きな励みになった」と声を弾ませる。山わさびの吉田さんは「つながりが出来たことがうれしい」といい、黒豚の阿部さんは「何より池田町に目を向けてもらえたことが一番さ」と笑う。まだ一握りではあるけれど、池田町の生産者の視界と可能性が大きく広がったのだ。

近隣市町村にとっても嬉しいニュースとなった。「今年の6月もホテルからイベント開催の要請が来たのですが、今回は近隣町村も巻き込んだ“ひがしとかちフェア”としての開催となりました」町から地域へ。効果の波紋は、今後十勝全体へと大きく広がっていくだろう。

さらに影響は札幌の飲食店にも。冒頭でも触れたように、この話題に触発されたイタリアンや居酒屋、和食店などがこの8月、池田町の食材を存分に堪能するイベントをスタートさせる。ちなみにある店舗では池田町食材でこしらえる「黒豚極太焼きそば」が登場するとか。そんな話題も呼び水となり、今年は前回の何倍もの市民や観光客が、池田料理に舌鼓を打つことだろう。

取り組みは、まだまだプロローグ

魅力あふれる食材を糧に、ワインの町からワイン“もある”町に変貌しようとする池田町。だが一連の取り組みは、これからが正念場と佐藤さんは言う。
「僕がつくったのは、きっかけです。この気運が、池田町の多くの生産者や札幌の飲食店に広がり、池田町に足を運ぶ観光客やリピーターが増えて、初めて目標達成といえるでしょう。まだまだプロローグですよ」

冷静な口ぶりとは裏腹に、表情はとても穏やか。それは佐藤さんの視界の先に、おぼろげながらも成功への道筋が見えているからだろう。

お話の終わり、佐藤さんが今抱える火種とアイデアを尋ねた。てっきり、町の食材と観光について話すと思いきや…
「動き始めたら、自分が矢面に立つのは終わり。食材の取り組みに関しては、後は陰ながら応援するだけですよ。それより今の課題はワイン城。豪快に盛り上げるにはどうしたらいいか… 一生懸命頭をひねっているところなんです」

なんと、佐藤さんの頭脳の中には、もう別のビジョンが映しだされている。もしかしたら、この切り替えの早さこそ、佐藤さんのユニークなアイデアの源泉なのかもしれない。

取材・文 山本 公紀

写真 亀谷 光

北海道池田町観光協会
北海道中川郡池田町字清見83
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