農style fileVol.22

2015.02.12 UP

home > 農style file > Vol.22 人気ジェラート店の若きオーナーが語る「ノリ」と「勢い」と「感謝」。

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有限会社 ベリーファーム 加藤 寛志さん

人気ジェラート店の
若きオーナーが語る
「ノリ」と「勢い」と「感謝」。

千歳市と聞くと、空港やその周辺の工業団地などを思い起こしてしまいがちだが、中心部を離れた一帯には、美しい自然や実り豊かな農地が広がっている。「有限会社ベリーファーム」がジェラートの製造所や飲食スペースを構えるのも、この街の郊外の田園地帯。その背景には、16種類ものブルーベリーを育む果樹園が横たわる。

就農したはいいけれど...

三角屋根と木造りのテラス。ベリーファームが運営する「ミルティーロ」の外観は、北欧の物語にでも出てきそう。お話を伺ったのは同社代表の加藤寛志さん。真っすぐな眼差しが印象的な三十代半ばの好青年だ。まずは会社設立の経緯から。
「大学卒業後、旭川の一般企業に就職しました。社会人二年目の時に不動産業を営んでいた両親が千歳に農地を取得。私自身いつかは独立したいという思いもあり、土地を遊ばせておくぐらいなら、いっそ農業を始めてみようかと」
2005年、そんな軽い「ノリと勢い」で就農を果たした。作付けに選んだのは無農薬有機栽培のイチゴと健康志向が追い風となっていたブルーベリー。一般的な園芸野菜では他の農家さんに太刀打ち出来ないというのは百も承知だった。
「とはいってもブルーベリーを育てた経験などあるはずもなく、当初はものすごい苦労をしました...」

重機で土を起こす。パワーショベルで千を越える数の穴を掘り、ピートモスを使って土壌改良に精を出す。仕入れた苗木を一本一本植え込んでいく。作業はほぼ自分一人。連日の重労働で腰と尻が悲鳴を上げた。
「加えて栽培の知識もゼロ。作業の合間にネットや文献で調べたり、長沼の農業試験場を訪ねたり。試行錯誤というより紆余曲折ですね。でも不思議と辛くはなかった、むしろ毎日が新鮮でワクワクしてました」
独学でノウハウを蓄え、就農4年目に初収穫を迎えた。その後の数年間は収穫した分を札幌の販売店に出荷したり、最盛シーズンは観光農園として営業するなどの日々が続く。
ただし利益はほとんどなかった。
「市場に卸す、直売所に持ち込む、冷凍して大手量販店に買い上げてもらう...様々な販売法を試しました。でも競合する農家さんはたくさんいるし、そもそも収穫量のケタが違う。わずかな収益は畑の維持費と人件費でパー。恥ずかしながら自分の生活費はアルバイトでまかなっていたんです」

とれたて素材のジェラートを!

2010年の夏のある日。加藤さんは自社のブルーベリー畑にいた。
「このままじゃらちが明かない...」
果実販売の限界を痛感する毎日。途方に暮れかけたその時、ふと自分の右手に目が行った。そこには休み時間に食べようと思っていたアイスキャンデーが。瞬間、これだと思った。
「この畑のブルーベリーをジェラートの原料にして、お客さんに味わっていただくのはどうだろう」
難しい料理は無理でもジェラートならできそうという、就農時と同じような「ノリと勢い」。だがそれは今回も入り口だけの話。そこから加藤さんは持ち前の探究心と行動力をフルに発揮する。
まずは専門書やノウハウ本を読みあさった。人気店や有名店の食べ歩きもした。数々のスイーツ系の講習会に参加するだけでは飽きたらず、イタリアに渡り本場のジェラートの奥義も修得。2012年には6次産業化事業計画の認証も得た。
「こうして学ぶと、ジェラートは実に奥が深いんです。スイーツだからって言う訳じゃないけれどちょっと甘く見ていましたね(笑)」

もちろん帰国後も原料の調達、収穫した自社のブルーベリーとの調合、オリジナルのレシピづくりなどに取り組む。主原料のミルクは北海道産、中でも味の決め手となる生クリームは上質な浜中町産を指定した。
「他の素材に関しても可能な限り道産がメイン。ただ中には北海道で栽培されていない果実もあるので、それらに関しては安全性やおいしさを厳しくチェックしました」
並行するように工務店と打ち合わせを重ねた。テーマはお客様を招きくつろいでいただくための空間づくり。経営の許認可を得るための申請にも長い時間を要した。

畑でのひらめきから3年。こうして千歳市の郊外にジェラートの製造と販売拠点「ミルティーロ」がオープンしたのだ。

人気におごらず「冬」を見据える?!

ミルティーロの店内は、大きな暖炉が印象的なカントリースタイル。大きなガラスケースの中には、イチオシ素材のブルーベリーの他、イチゴ・キウイ・マンゴー...珍しいものではかぼちゃ、きなこ、ピスタチオのジェラートがラインナップしている。このユニークなメニューが瞬く間に人気となり、店はオープン当初から大にぎわい。2年目(2014年)になるとテレビや雑誌などのメディアの影響もあり、客足はさらに増えた。
もちろんお客様からの評価は上々。「こんなジェラートは初めて!」「全メニューを制覇したい」そんな声が加藤さんのもとにも数多く寄せられた。しかし当の加藤さんはいたって冷静だ。
「ここまでは本場仕込みのクオリティとユニークさで乗り越えたけれど、現状にあぐらをかいては発展がありません。さらなる集客、収穫量の拡大など課題は山積み。これからが本当の挑戦だと思っています」

就農して間もなく10年。ブルーベリー栽培とジェラート販売という二足のわらじを履いて2年半が過ぎた。今改めて感じるのはつながってくれた人々への感謝だ。
「スタートは一人だったけれど、ブルーベリーの収穫にしても店舗づくりにしても接客やメニュー開発しても、自分の横には常に誰かがいてくれた。親や兄弟、仲間や従業員...その支えがあったからこそ今があると思う」
ジェラート製造室では額に汗をかき、店内では満面の笑みを振りまきながら、若いスタッフたちが働いている。その様子に目を細めながら加藤さんはこう言う。
「北海道の農もジェラートの提供も、冬にどんなビジネスを生み出すかがポイント。そこに新しいアイデアが浮かべば、もっとたくさんの若者たちも雇用出来る。夢を共有してくれる仲間も増えるんです」
節目節目に現れた加藤さんの「ノリと勢い」。今回もそれが登場し、この若きチャレンジャーに新しい道を示唆してくれるような気がしてならない。

取材・文 山本 公紀

写真 工藤 了/橘 真司

有限会社 ベリーファーム
農業生産法人としてブルーベリーの生産販売に取り組む一方、人気のジェラートショップ『ミルティーロ』を経営。
北海道千歳市長都2
0123-23-5323
http://mirtillo.tank.jp/
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