農style fileVol.25

2017.01.23 UP

home > 農style file > Vol.25 ニッチな農産物で行こう。故郷池田町の名産品づくりに取り組む二人の生産者の思い。

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八木農場 八木さん / 𠮷田農場 𠮷田さん / JA十勝高島 久保田さん

ニッチな農産物で行こう。
故郷池田町の名産品づくりに取り組む二人の生産者の思い。

ワイン城で知られる池田町。実際に足を運んでみると、そこは十勝平野にのどかな田園風景を描く〝農業のまち〟であることに気づく。特産物は玉ねぎ、かぼちゃ、山芋、百合根、小豆など。和牛畜産も盛んだ。だがここでスポットを当てるのは、そうしたメジャーな農産物ではない。それらの隙間でキラリ輝く〝ニッチな〟作物、『ツクネイモ』と『山ワサビ』である。

池田町の新名産品その1『ツクネイモ』
八木農場 八木賢太郎さん

先代から継いだ栽培は苦労と失敗の連続 『ツクネイモ』を食したことがある人は、多分そう多くないだろう。ツクネイモとはナガイモと同じ“山の芋”の仲間。関西・北陸の料亭などで古くから珍重な食材として利用されているほか、贈答品や高級和菓子の材料などにも使われているという。
ナガイモとの大きな違いは、屈強な男の拳のようにゴツゴツした“カタチ”と、経験したことのないほどの強烈な“粘り”だ。皮を剥いてすりおろした“とろろ”は、まるでモチのよう。普通のナガイモなら箸ですくうことはできないけれど、ツクネイモなら箸でそのまま持ち上げることができる。定番のとろろご飯のほか、煮付けや焼き物さらに鍋などの具材としても利用でき、その濃厚な味わいと食感のトリコになる人も多い。
この魅惑的な食材を弟さんと共同で栽培しているのが、八木賢太郎さん。笑顔がさわやかな好青年だ。
「20年ほど前、父が京都の丹波地区を視察した際に、市場で目にしたのが始まり。種を取り寄せ植えてみたらしいのですが、栽培法が確立しておらず手間もかかるため、最初の十年はかなり苦労したようです」
関西では稲作が終わった秋の田んぼに栽培していたが、北海道にはそぐわない。先代は種芋の処理法を変えたり、植える深さを調整するなど試行錯誤を繰り返した。その結果、5月の上旬に種芋を植え土の温度を高く保ちながら育てていくと、10月末には上質のツクネイモが収穫できることが分かった。
「とはいっても自分が就農した8年前は、ツクネイモの作付面積などほんのわずか。主要作物を栽培する片手間でつくる程度でした」

栽培法を広めていつかは池田町を名産地に 就農を果たした賢太郎さんは、ツクネイモの本格的な栽培をスタートさせる。作付面積も毎年コンスタントに広げ、3年前には1haを超えたという。と、ここで小さな疑問が湧く。失敗も多く手間がかかる割に収量も少ない(同面積のナガイモの半分以下だとか…)ツクネイモをわざわざ栽培するのはなぜだろう。賢太郎さんは相好を崩し、手間がかかるからおもしろい、と応えた。
「実は農機を工夫するなど、今でも試行錯誤は続いているんです。いうなれば毎年答えを探してる感じ。でもそれが楽しい。北海道のツクネイモ栽培では自分が先頭を走ってる、この感覚を味わい続けたいのかも」
さらにイベントや飲食店で自分のツクネイモを口にした客が、その粘りや味わいに感激する様を目の当たりにすると、「とてもじゃないが、やめられない」と笑う。
手作業が多く初期投資もかかるため、周囲に気軽に栽培を呼びかけるのは気がひける。けれどそのハードルを超えられるなら、栽培法を地元の生産者に公開していきたいというのが、賢太郎さんの考えだ。
「需要はまだまだ伸びていくでしょう。池田町がツクネイモの名産地となるチャンスは今じゃないかと」
胸の奥にあるのは故郷に寄せる熱い思い。ツクネイモの粘りに負けない賢太郎さんの奮闘はまだまだ続く。

池田町の新名産品その2『山ワサビ』
𠮷田農場 𠮷田岳大さん

活気のない故郷にピリリと刺激を与えるのは。 「幼い頃、ふるさと銀河線の線路沿いに山ワサビがたくさん生えました。それを祖母と二人でよく採りに行ったんです」
そんな遠い日の記憶を教えてくれたのは𠮷田岳大さん。同じ町内の斎藤源嗣さんとともに、ケナシバ山ワサビの生産に取り組んでいる。
「サラリーマンを経験し、30歳を目前に池田町に戻ったのが十年ほど前。以前に比べ人口も減りつつあったこの故郷のために、特産品の発掘など、何か貢献できることはないかと考えていた際に出会ったのが、斎藤さんの山ワサビでした」
すりおろしたものを口に含む。ピリリとした辛さの中に広がる滋味や風味。なるほど、うまい。さっそく自分も栽培を、と考えた𠮷田さんの前に思わぬ壁が立ちはだかった。それは家族からの猛反対。
「野良生え(自然に生えてくる)するほど生命力が強い山ワサビを、なぜわざわざ畑で栽培するんだと(笑)」
秋にわずかな根を残しただけで春先には太い芽をだすと言われる山ワサビ。𠮷田さんの両親や奥様は、他の畑への影響も懸念した。「でもそこは、誰にも迷惑はかけませんの一点張り。なんとかお願いして0.1aほどの小さな小さなほ場で栽培を始めました」
これが今から6年ほど前、平成22年のことである。

池田の「食」を盛り上げる無くてはならない脇役にしたい。 野に生えるほどの山ワサビを畑で栽培する理由を聞いてみた。
「野良ものは誰も手をかけないので、何年も生えています。すると味も落ちるし辛味も抜ける。畑作の山ワサビはすべて、春に植えて秋に収穫する単年もの。手で雑草を取り、さらにその年の天候を見ながら追肥もするので、味わいが均一で特有の香りを放ち辛味のバランスもいい、最高の山ワサビに仕上がるんです」
その一方、𠮷田さんは売り先の確保にも取り組む。個人のお客様への直売はもちろん、町内飲食店や小売店、札幌の飲食店などにも働きかけた。
「口にした多くの方がその辛さと旨さを評価してくれました。その方々の口コミもあり今もお取引先は増えています」
さらに𠮷田さんが嬉しかったのは、この山ワサビを介して出会いや人脈が大きく広がったことだ。
「観光協会や農協の方々の協力もあり、僕の山ワサビを池田町の牛・豚・羊の肉料理の薬味としてPRしてくれるようになったんです。その取り組みを通じて今まで関わりのなかった地元の生産者とも出会うことができました。みなさんがまちを元気にしたいと願っていることにも感銘を受けました」
𠮷田さんの思いはただ一つ、山ワサビを池田町の名産品に育て上げ、池田町の活性化に役立てていくこと。
「ブームで終わらせたくはないので、続けることが大切だと思っています。山ワサビは確かに脇役ですが、なにでもあわせられる食材。池田町の多彩な『食』を楽しむために、多くの観光客が来るようになれば…なんて夢も描いているんです」

二人の取り組みを温かな思いで支えるJA十勝高島。

熱い思いを抱きながら、池田町の名産品づくりに取り組む生産者。この二人の活動を陰ながら支えているJA十勝高島についても付記しておこう。
一般的に農協が取り扱うのは、じゃがいもやトマト、玉ねぎや食肉など、スーパーの売り場で目にするメジャーで収量も多い品目だ。収量の少ない作物は、手間がかかる割に収益を得づらいため敬遠される傾向にある。しかしJA十勝高島は、八木農場と一緒に特産品を作ろうとツクネイモ栽培を支援したり、𠮷田農場の山ワサビの保管や販売をサポートしている。その理由をJA十勝高島の久保田係長はこういう。
「池田町の活性化に貢献することも農協の大切な仕事。故郷の将来のためにこうして頑張っている青年たちを応援するのは当然のことです」
ふたつの畑で始まった池田町の名産品づくり。それは多くの方との出会いや仲間の支えを糧に、いつか大きな実りを迎えるだろう。

取材・文 山本 公紀

写真 工藤 了

八木農場
中川郡池田町字信取
𠮷田農場
中川郡池田町字大森
◎JA十勝高島ホームページ
http://ja-tokachitakashima.jp/
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