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2010.01.29 UP

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vol.3

技術と経営センスの両輪が
就農成功への原動力

アスパラ農家 押谷 行彦さん
1970年生まれ
兵庫県尼崎市出身
introduction

1999年、アスパラ農家として北海道長沼町で新規就農した押谷行彦さん。今や、その味、食感ともに評判の高いアスパラを生み出す農家として有名だ。押谷さんに話を伺うと、アスパラ生産技術に対する真摯さや、農業経営に関するセンスの良さが、言葉の端々から感じられる。新規就農には様々なハードルがある。就農までのハードル、就農してからのハードル。それぞれを苦しみながらも、見事にクリアしてきた押谷さんは、次に続く就農希望者への支援を始めている。

stage1 兵庫県尼崎市
大手流通グループ勤務

「農家」としての将来を見据えて「流通」を学ぶ。

泥まみれになって太陽の下で働くことに憧れていた押谷さんは、元々農業という仕事が視野に入っていた。大学卒業後に就いた仕事は大手流通グループの鮮魚担当。非常に厳しい労働環境での仕事であったが、実はそこに学ぶべきポイントがあったのだという。食品の流通システムだ。その知識は、いずれ農業に就いた時に必要になるものと思っていた。この「先を見る目」は押谷さんのセンスの良さだ。流通業での経験を踏まえつつ、押谷さんはいよいよアクションを起こす。農業を目指す場所として、九州と北海道とで迷ったが、「半年遊べるから」と、ここは軽いのりで北海道を選択。単身で家財道具一式を車に詰め込み、北海道へと向かった。

stage2 深川市
大学にて農業を学ぶ

未知の土地での人脈づくりも考え、大学へ入学。

北海道へやってきた押谷さんは、深川市にある拓殖大学北海道短期大学に入学する。農業の勉強をしたいということもあったが、それよりも人脈づくりを考えていたという。事前のリサーチで、この大学には農家の息子も数多く通っていること、北大の先生もいることがわかっていた。そういった人たちと知り合いになれることが何よりありがたかった。北海道で何のつてもない押谷さんにとって彼らは、就農に向けての様々な場面で相談できる貴重な知り合いとなるのだ。就農相談の公的窓口だけでは、なかなかこういったネットワークまでは広げられないだろう。遠方から就農を希望する押谷さんにとって、この先必要になってくることは農地や技術やお金だけではない、というところに気がついていたのだ。

stage3 恵庭市
農業生産法人にて研修

「贈り物」としての可能性を感じ、アスパラを選択。

大学を出た後は、恵庭市の余湖農園で二年間の農業研修。農作業技術を実地で学びながら、就農への準備を進めていった。栽培品目はイチゴとアスパラガスの二つが候補。イチゴは技術的な面で向いていないと断念し、アスパラを選択。理由は、「小さくて単価が高い」「贈り物に使ってもらえるような野菜」。そして、新規就農者の関門のひとつである農地探し。市町村、JAなどを訪ね歩き、長沼町で家付き納屋付きのちょうどい面積の土地に巡り会う。押谷さんにとっても土地との出会いは「たまたま当たった」だけで、やはり最大のハードルであるようだ。一般的に、新規就農者にいい土地が紹介される可能性は非常に低いとのこと。

stage4 長沼町
アスパラ農家として就農

退路を断ち、自分を追い込んでピンチを凌ぐ。

就農後、すぐにピンチが訪れたという。アスパラという作物は収穫まで三年間かかる。ということは二年間は無収入。予想してそれなりの準備はしていたのだが、自己資金がどんどん減っていく毎日に、「余裕があればやめていたでしょうね」。押谷さんの言う“余裕”とは、帰る場所という意味。もう実家には帰れない状態にして自分を追い込んでいたということだ。「半年遊べるから」という儚い夢はもろくも吹き飛び、冬の肉体労働のアルバイトなどで何とか凌ぐ。そして努力した結果で今がある。押谷さんの確かな栽培技術で育てられたアスパラは、その美味しさが口コミでどんどん拡がり、すっかり「贈り物に使ってもらえる」ものになっている。

stage5 長沼町
夫婦で営む押谷ファーム

“花”の魅力も加わって、さらなる拡がりが。

押谷ファームは、アスパラの他にフルーツトマトなども栽培。さらに研修時代に知り合った奥さんの志都香さんは花卉栽培も手がけ、農園の入口には約300坪のフラワーガーデンもつくられている。押谷さんは「たくさんの人に来て欲しいんです」と語る。アスパラや花を直売すると同時に、訪れたファミリーが併設のフラワーガーデンでくつろいでいる。そんな幸せな空気がこの押谷ファームの魅力となっていくことだろう。

message 新規就農希望者へ

失敗する新規就農者も数多いという現状を踏まえて、「五年以上続いている新規就農農家で学ぶべきだと思います。五年続いたというのは(農業経営の)歯車が回り始めたと言うことですから」 つまり、自らの経験も含め、厳しい現状を熟知している立場として、持続可能な農業経営がなされている新規就農農家で学びなさいというメッセージだ。また、中古の機械やハウスでスタートすべきだと力説する。最初に多額の借金をすると身動きがとれなくなる。自分の農業が固まるまでは「選択肢は多い方がいい」という。栽培作物が変わるなど、自分の目指す農業が変わる可能性だってあるのだ。これも自ら苦労しつつ経営を軌道に乗せた人ならではの助言だろう。そして今、押谷さんは新規就農希望者を研修生で受け入れたいという。次に続く人たちに、自分の技術・経験をベースに就農のノウハウを伝えたいということだ。就農して10年が経過した押谷さん自身も、まだまだ満足感は得られていないという。しかし、「目の付け所、工夫、販売方法で、農業の可能性は無限大ですよ」と農業の魅力を語る言葉には、力強さと自信が感じられた。

押谷ファーム
北海道夕張郡長沼町東3北13
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